現代病草紙−皮膚科の診療室より−
 
 

アトピー性皮膚炎って本当にこわいの?
 

「あなたのお子さんはアトピーですよ」と言うと、悲嘆にくれるお母さん方をよく拝見します。今や、「アトピー性皮膚炎=治らない皮膚病」を勘違いをしている方が何故かとても多いのです。                                       

アトピー性皮膚炎とは、様々な原因で皮膚にかゆみと湿疹性の病変を生じる皮膚
です。確かに最近患者さんの数も増え、重症化する場合もよく経験しています。しかし、基本的には、アトピー性皮膚炎は乳幼児期に始まり、その大部分の患者さんは小学校高学年までに治る皮膚病です。その期間をスキンケアなどでうまく治療していけば、全くこわい皮膚病ではないのです。                           
 

つい最近までアトピー性皮膚炎の原因は、牛乳や卵などの食事であると言われてきました。しかしそんな単純なものではなく、実に多くの原因が介在することがよく分かってきました。                                          

 最近、患者さんの皮膚の状態を調べてみると、皮膚のバリアーとしての機能が低下していることが分かりました。バリアーの機能低下は様々な物質を体内に侵入しやすくします。それらが「抗原(こうげん)」となって患者さんの皮膚に異常な免疫反応を引き起こし、かゆみや湿疹性の皮膚病変を作るというメカニズムがかなり詳しく解明されてきているのです。                                              
まず「かゆみ」は、〈掻く〉という行為を引き起こし、掻くことで皮疹はますます悪化します。何故掻くかは、《かゆい》ことも重要ですが、掻くことが気持ちよいからなのです。このことを「掻破現象(そうはげんしょう)」といって、最近の皮膚科学会の注目を集めています。かゆくない時でも、気持ちのよい掻くという行為が思い出され、繰り返されるのです。そのため皮疹はなかなか改善されません。とくにストレスを感じた時などにその傾向が強いことも学会で報告されています。                   
 

例えば、受験時に炎症が悪化していた患者さんが合格後軽快するのを、私も少なからず経験しています。                                    
 


 

  ところで最近は、成人になってもなかなか治らない「成人型アトピー性皮膚炎」の患者さんが多くなってきました。この背景には、前述したようにいろいろな因子が考えられます。                                               

問題は、「成人型アトピー性皮膚炎」は命に関係ないということから、多くのいろいろな「民間療法」が出てきていることです。なかには真面目なものもありますが、とんでもないものもあります。ある患者さんが民間療法に一千万円以上もの治療費を払っていたことが発覚したこともあります。もちろんこの方もアトピー性皮膚炎は治っていません。                                                

皮膚科専門医は今、アトピー性皮膚炎に勢力的に挑戦しています。診断基準を作成し、治療指針も具体化しつつあります。今後多くの新薬も開発される予定です。  
 

民間療法がいけないというつもりはありませんが、可能ならぜひ皮膚科専門医にも相談してください。怖い、忙しそうにしていて説明がない、威張っているといった、医師側の困った側面も統計的には出ていますが、すべての皮膚科専門医がそうではありません。                                             

私たちは、「見える」皮膚病をなんとか解決すべく日夜考えています。アトピー性皮膚炎の完璧な治療に関しては、もう少し時間を与えて下さい。             
 

しかし、アトピー性皮膚炎は現時点では完全に治らないにしても、高血圧症や糖病などと同じようにコントロールが十分に可能な病気です。新しい治療法やスキンケアの発達によって、ますます可能になってくると思われます。ごく最近、有効な治療薬が発売されました。                                          

しつこいようですが、アトピー性皮膚炎は決して治らない皮膚病ではありません。ぜひ冷静に対処してくださることを願っています。