現代病草紙

−皮膚科の診療室より−

 
 

肌はいつもきれいにしていなければ?
 

あなたは毎日、入浴する習慣がありますか?

 

  一昨年の冬(二月・約五百名)と夏(七月・約九百名)、私の医院に受診した方に

ご協力いただき、入浴と石鹸の使用状況について調べました。その結果、冬でも毎日入浴

している人の割合は約九二%、夏では約九六%にも及んでいることを知りました。七十歳

以上の方はその割合が大きく下がるので、若い人達はほとんど毎日入浴していることになります。                

 

  使用する石鹸の種類は、液体石鹸が、冬、夏とともにほぼ半数を占めました。わずか

十五年ほどの歴史でしかない液体石鹸が、もうすっかり過程のお風呂場に入り込んでい

るのです。ご存知のように液体石鹸は、固形石鹸よりも使用量が多くなる傾向があり、

また固形石鹸に比べて洗い流しにくいようです。多量に使用しやすい液体石鹸は、環境

汚染の面からも問題があるようには私は思っています。

 

  洗う用具は、ナイロンタオル、タオル、スポンジ、手のみ、ガーゼといった順。

なかでもナイロンタオルは、冬約三四%、夏では約四八%も占めていました。

 

  以上のことをまとめると、ほとんどの方が冬、夏ともに毎日入浴し、約半数の方が

液体石鹸を使い、ナイロンタオルのようなものでゴシゴシ洗っていることが判明。

特にこの傾向は若い女性に顕著でした。

 

  いつからこうした習慣になってしまったのでしょうか。確かに肌をきれいに保つ

ことは悪いことではありません。しかし、度を越した潔癖性は、むしろ皮膚に有害です。

なぜなら、皮膚の最も大切な役割は、皮膚の最外層に存在する「皮膚脂質」や「細胞間脂

質」などの成分によって、外界のいろいろな刺激から真皮を守るバリアーとしての機能

なのです。石鹸で擦るという行為は、実はそれらのバリアーを破壊してしまうことなのです。

その結果、必然的に皮膚は乾燥してきます。通常は常在菌などによって弱酸性に保たれて

いる皮膚表面が、アルカリ性に変移してしまうのです。そして皮膚は、カサカサと乾燥して

しまうとともに、様々な刺激を受けて痒くなります。特に空気の乾燥する冬はこうした現象が

目立ってきます。カサカサして痒い時、ナイロンタオルで擦ると気持ちがよいので、ますます

一生懸命洗うという悪循環に陥ってしまうのです。

 

  さらに困るのは、そうした行為は肌に良いことだと思い込んでいる方がとても多いという

事実です。最近は多くの方の肌が(若い方でさえも!)乾燥し、ひどい場合には黒ずんで

います。

 

  私の幼い時代には、お風呂は貴重なものでした。薪や石炭などで沸かすと、家長から

順番に、なるべく湯船の湯を汚さないように注意しながら、短時間で家族全員が大事に

入ったものです。毎日入浴していた人は少なく、夏は行水などで補っていました。その

程度の入浴が、むしろ肌に適当な潤いを与え、健康的であったように思われます。

 

  私たちにとって現在の暮らしは、昔に比べてとても便利に、快適にもなってきまし

た。お風呂はまさにその典型かもしれません。しかし、それらのことがすべてよいこと

であり、そして正しいことであるとは言えないのです。私の実感としては、毎日入浴

しなくては気持ち悪い方は、固形石鹸を泡立てて、手のみでやさしく洗うだけで十分

です。毎日しっかり洗う必要はありません。それでも肌は十分に清潔を保つことが可能

なのです。

 

  最近のお母さんはお子さんに、「勉強しなさい」という言葉とともに、さらに「お風呂

に入りなさい」という言葉が加わっているようです。私には、どちらの言葉もあまり

必要ないことだと思えます。当たり前だと思われている毎日の入浴習慣を、どうぞ

もう一度考え直してみて下さい。