現代病草紙−皮膚科の診療室より−
 
 

花でもかぶれるの?
 

   かぶれる、という言葉はよくご存じのことと思います。正式には

接触性皮膚炎と呼ばれている代表的な皮膚疾患の一つです。


  診断名のごとく接触することで皮膚に炎症を起こす状態とされて

います。例えば、漆でかぶれる人がいると聞いたことがありませんか?

毛染めやクロムやニッケルなどの金属もかぶれやすい物質です。頻度

は別にして、身の回りには実に多くのかぶれやすい物質が存在して

いるのです。残念なことにあの綺麗な花でもかぶれることが多々あり

ます。

  その代表的なさくら草です。さくら草に触れて、触れた部分(顔や手・

上肢)が赤くなり、痒くなる人がいるのです。よく見ると赤い部分には、

水を持ったようなブツブツ(漿液性丘疹<しゅうえきせいきゅうしん>)

が集っています。それはとても痒い状態です。

  なぜそうなるのでしょうか?

  人間の体には免疫という機能があることはよく知っていると思いま

す。私たち体の組織(自己)、それ以外もの(非自己)を区別し、

非自己のものを排除することで自己を守るという人体にとって有益な

仕組みが免疫なのです。具体的には「みずぼうそう」になったら、

二度とかからないといった現象などが代表的なものです。


  しかし、全く同じ反応でも、人体にとって不利益に働く仕組みがアレ

ルギーと呼ばれているのです。このアレルギーには現在、大きく分けて

四つのタイプが知られています。

専門的になりますが、即時型反応とよばれるT型アレルギー、細胞

溶解型あるいは細胞傷害型ともよばれるU型、免疫複合体型と

よばれるV型、細胞性免疫反応とよばれるW型です。


  この中でT型とW型が特に重要です。T型は十五分程度の短い

反応で、ショックもその中に入ります。W型は四十八時間を要する

長いアレルギー反応。ツベルクリン反応が代表的です。


  漆、毛染め、金属、そしてさくら草などの原因物質は、専門用語で

「抗原」 といわれています。その抗原が接触して皮膚に入ると、

表皮にあるランゲルハンス細胞に認識されます。その情報はさらにリン

パ球に伝達され、「抗体」を産生します。何度も同じ抗原刺激を受け

ることで、そうした情報を受け取ったリンパ球と抗体が増加します。そして

ある時期になると、抗原が入った時、抗原と抗体とが結合したものが

リンパ球などを刺激して、いろいろな物質(サイトカイン他)を出して

炎症反応を引き起こしてしまうのです。こうしたプロセスがかぶれ

の実態です。


  一度かぶれるとほとんどの場合、その物質にさわる度に同じ

症状が起こり、一生なくなりません。むしろ同じ抗原に接触するこ

とで、ますます症状が強くなってきます。場合によってはショックを

起すことさえあります。蜂に刺されて命を落とすことがある

のは、まさにその状態です。

蜂に何回も刺された方は十分に注意して下さい。


  ところで、自然化粧品とか自然食品をとても良いものだと思い

込んでいませんか?多くの人たちが、自然のものだから大丈夫

だと思っているふしがあります。しかし自然を代表する植物でも、

今まで述べたようにしばしばかぶれるのです。あの綺麗なさくら

草が、きわめてかぶれやすい植物だという事実には驚かされる

でしょう?


  自然だから大丈夫、ではなく、自然なものでも人体に有害に

なるものがたくさん存在することをよく知っておいて下さい。

くどいようですが、あの綺麗な花でも果物、葉、茎から出る汁

など“自然”と言われているすべてのものがかぶれる物質に

なりうることをこの機会に十分に理解しましょう。