現代病草紙−皮膚科の診療室より−
 
 

ヘルペスってなんですか?
 

      
   ヘルペスとは、皮膚感染症のなかでウイルスによる代表的な皮膚疾患です。

このウイルスを特に「ヘルペスウイルス」と呼びます。ヘルペスは現在のところ二種類に

大別されています。一つは、単純ヘルペスウイルスが原因の「単純性疱疹」

(たんじゅんせいほうしん)と呼ばれているものです。これはわりと多くの方が経験して

いるのではないでしょうか。


  口の周りに出やすく、小さな水疱(すいほう)《みずぶくれ》が集った状態になります。

皮疹とともに、軽い痛みなどの不快感を伴うことが多いようです。放っておいても二週間

前後で治りますが、見える部位だと非常に気になりますし、口の中や陰部など見えない

部位にもできやすく、不快感はこちらのほうが大きいようです。原則としてどちらも

直接触れることで感染し、個人差はありますが、一度感染すると何度でも発疹します。

ではどんな時に発疹するのでしょうか。


  よく覚えていて欲しいのですが、単純性疱疹は体調が悪化した時などに生じますし、

紫外線も増悪因子です。具体的な例を言えば、久しぶりにゴルフを楽しんだような時、

疲れと紫外線の作用によって生じることがよくあります。逆に言えば、単純性疱疹が

生じたならば、疲労やストレスなどで体調が悪化していると考えてもいいでしょう。


  もう一つは「水痘」(すいとう)と呼ばれる皮膚病です。「水ぼうそう」と言えば

分かりやすいと思います。これは水痘・帯状疱疹(たいじょうほうしん)ウイルスが

原因です。


  一般的には子供の病気ですが、大人もまれにかかることがあります。全身にばらばら

<散在性>(さんざいせい)小水疱が生じます。おおよそ一週間ほどで治りますが、

重症になると、ウイルスが脳に入って「脳炎」になることもありますから、簡単に

考えないでください。できるだけ早く、病院など専門医に診てもらったほうが

無難です。


  水痘は、今まで罹患(りかん)していない人に感染<初感染>したものです。潜伏

期間はおよそ二週間。大部分の人は小学生までに罹患しますが、大人になって

初めて感染した場合は、高熱を伴い、重症化します。しかし一度水痘に罹ると、

「免疫」の作用により、二度と水痘には罹りません。


  水痘に罹患すると、そのウイルスは神経細胞内に閉じ込められます。そして長い期間

おとなしくしていますが、体調が悪化した時、老化や癌などで抵抗力が落ちた時などに

再び発疹します。これが「帯状疱疹」です。ウイルスが神経節や脊髄から所属神経に

沿って活動します。症状としては「片側性」で、「帯状」(おびじょう)に小さな水疱

の集りが生じます。そしてウイルスが神経に障り、傷つけるので、多かれ少なかれ痛みが

伴います。お年寄りほど激痛になることが多く、長く痛み続けることも多いようです。

この痛みは「疱疹後疼痛」(ほうしんごとうつう)と呼ばれています。


 発疹の部位は、頭から体、下肢までいろいろなところに生じます。顔に生じた場合は、眼が

侵されたり、顔面神経麻痺が起きることがまれに見られます。いずれにしても十分な注意が

必要です。


  最近、こうしたヘルペスに対する有効な薬剤が開発されました。「抗ウイルス剤」と呼ばれて

いるものですが、単純性疱疹と帯状疱疹とでは投与量が大きく異なります。しかしどちらも

早期に投与すると、よく効くことが報告されています。特に、何度も繰り返す単純ヘルペスの

場合、早期治療はきわめて有効です。


  顔などに小さなみずぶくれができやすい人、あるいは帯状疱疹と思われる人は、

できるだけ早く、皮膚科専門医を受診しましょう。