現代病草紙−皮膚科の診療室より−
 
 

皮膚科ってなに?
 
 

   ごく当たり前のことですが、皮膚に生じた「すべての病変」をみる診療科目です。皮膚病はずいぶん昔から知られており、ローマ時代の書物にはすでに「皮膚病」記載があると聞いています。もちろん日本でも平安時代の「病草紙」という絵巻物に、その一端を見つけることができます。                                
 

  今、私は、それとほぼ同時代の「異本病草紙」という絵巻物を調べています。その当時から皮膚病は、とても注目されていた病気の一つであることがよく分かりました。 皮膚科という診療科目の特徴は、大きく分けて三つあるように、私は思っています。                                                  
 

まず第一は、その病変が「見える」ということです。これは、私たち皮膚科医に「見える」とともに、患者さん自身にも「見える」ということになります。           
 

見て診断することを、皮膚科では「視診」と言っています。実際、私たち皮膚医は、患者さんを一目見て、すぐに診断していることが多いのです。特に顔はすぐに分かる場合が多いと言えます。その他の部位でも、患者さんの説明を聞くよりも、実際見せてもらったほうがはるかに早く診断できるのです。                     

逆に言えば、患者さんはその「見える」、そして「見られる」皮膚病変で深刻にんでいるのです。私は、たかがニキビでもその人にとってはとても悩みが多い(こういたことを専門用語で「愁訴」と言っています)と思い、皮膚科を選びました。         
 

また皮膚科は、病気が治ったかどうか患者さん自身がしっかりと判断できる分野です。つまりほとんど誤魔化しのきかない診療科目といえるでしょう。          
 

第二の特徴は、皮膚は身体の最も外側にあるために、簡単に皮膚のほんの一部を採取することが可能だということです。その採取した皮膚を顕微鏡などで調べることで、ほぼ正確に診断できます。こうした検査を「皮膚病理組織学」と言っています。長い歴史のなかから膨大な資料が蓄積され、体系化されてきています。         
 

第一、第二の特徴をまとめてみますと、皮膚科は目で「見える」とともに、簡単にその病変を「採取」できて、診断が限りなく正確になると言えます。このことは、治療する上でとても大切なことなのです。                               

さて、最も大切な第三の特徴は皮膚病変は「内臓の鏡」だと言われていることです。(専門用語ではデルマドロームと言います)例えば糖尿病になると、それに伴う様々な皮膚病変が生じてくることを知っている方も多いと思います。診断や病気の経過を見る上でとても大切なことです。難病とされる膠原病も多彩な皮膚病変を示すことが多く、その皮膚病変から病気の存在が初めて見つかることもしばしば経験しています。                                                
 
以上の三つの特徴を持った皮膚科ですが、先日、ある有能な若い素敵な皮膚科医が、人を恋する時には主に「皮膚」を含めた全体のイメージが重要であるから皮膚科を選んだ、と話してくれました。確かに、「心臓」や「肝臓」では、恋はしませんね。彼の選択眼のなかから、今の若い人たちの新しいなるほどと思う見方を知り感心しました。                                                
 

とにかく皮膚科は、いろいろな病気と密接に関連していると言えます。これから、そういった皮膚病と、それにまつわる話題を、できるだけ分かりやすくお話しようと思っています。                                              

ところで、あなたの「皮膚」は健康でしょうか。来月から、様々な皮膚に関する情報をお伝えしたいと思っております。そうぞご自身でチェックしてみて下さい。