現代病草紙−皮膚科の診療室より−



自然化粧品っていいですよね?


「自然化粧品」、残念ながら私にはその意味がよく理解できません。

そもそも「自然」とは一体何を意味しているのでしょうか。


 世間では、その化粧品が自然に存在する植物から出来ているから「自然化粧品」

であり、だから良いと言っているようです。しかし植物のなかの「うるし」や

「さくら草」はとてもかぶれやすいものです。それを考えれば、植物から

化粧品を作ることは、逆に危険を伴うことになってしまいませんか?


 また、「石油製品」を使っていないからとてもよい化粧品ですというもっとも

らしい話もよく聞きます。しかし、石油は大昔の植物が長い間に変化・変性

したものです。今の合成化学では、石油からピュアな物質を容易に、しかも

安価に採取できます。それに引換え新鮮な植物からピュアなものを採取する

ことは極めて難しく、ほとんど不可能に近いのです。もし可能だとしても大変

な作業となり、非常に高価なものになることは火を見るより明らかです。

何故なら生きている植物は、必要かつ複雑な多くの成分から構成されて

いるからです。そうしてみると、石油製品を全く使用しないという

自然化粧品とは一体何なのでしょう?


 さらに「無添加」だからよいという立場の化粧品もあります。理屈から

言えば、なにも入っていなければただの基剤でしかありません。保湿成分の

一つでも入っていれば、それは「添加」です。化粧品にとって、保湿成分や

紫外線をカットする成分は重要です。無添加ならそれも入っていないと

考えるのが当然。一体何が具体的に無添加なのでしょうか?

 そして「防腐剤」が入っていないからよいという化粧品もあります。

ほとんどの化粧品はパラベンなどの防腐剤が入っていますが、その防腐

剤でかぶれる人は一体どれくらいの頻度で存在するのでしょうか。

経験的に言えば極めて少ないように思われます。むしろ防腐剤が入って

いないために変性し、別の悪影響を与える方が問題ではないかと、私は

危惧しています。


 私たちのまわりには実に多くのもっともらしい言葉や用語が氾濫

しています。とくに化粧品ではその傾向が顕著です。自然、無添加、

無防腐剤、コラーゲン等々。コラーゲン添加化粧品は、テレビの

コマーシャルなどの影響で今や高級化粧品として認知されつつあります。

この全く意味のない物質に関しては以前述べました(平成12年2月号)。

コラーゲンは人を含めた多くの動物の真皮などに存在するごくありふれた

成分です。純粋だと宣伝しているコラーゲンは、ひょっとしたら豚などの

皮膚から採取したものかもしれません。さらに専門的には、真皮の部位に

よって様々なタイプのコラーゲンの存在が確認されています。一体何を

もって純粋というのでしょうか。


 たかが化粧品、と侮らないで下さい。曖昧な、場合によってはウソに

近い情報に踊らされやすい私たちです。まず、コラーゲンなどの難しい

用語や、自然、無添加などという安易な言葉に注意しなければなりません。

皮膚科医は、化粧品のなかに含まれているかぶれやすい物質を今まで

注意深く調べてきました。そして特に色素や香料にその原因であることを

つきとめました。化粧品の大手メーカーほどそうした事実に敏感に反応し、

いち早くかぶれやすい物質を化粧品から除去する努力をしています。

ですから日本の一流化粧品はとても優秀だといえます。例えば口紅の

真っ赤な色素はかぶれやすいため、外国製品に比べて日本の口紅の色は

地味になっているのです。


 結局、化粧品会社の良心や誠意と、化粧品を使う消費者の冷静な、

そして客観的な対応を祈るばかりです。