現代病草紙−皮膚科の診療室より−



STD(性行為感染症)とは?


 近年、性行為による感染症が問題となっています。STD(sexally transmitted disease)

と総称されていますが、これは以前言われていた「性病」(梅毒、淋疾、など)より大幅に

病気の数が多いことが特徴としてあげられます。

  つまり、いろいろな病気が性行為で感染することがわかってきたのです。



  最も代表的なものがエイズ(AIDS・後天性免疫不全症候群)です。原因はエイズウイルス

(ヒト免疫不全ウイルス=HIV)。性行為などの接触によってすみやかに感染します。感染後

一定の潜伏期間を置いて免疫機構が破壊され、重篤な状態に陥る病気です。一時はマスコミによって

大きく報道されましたから、皆さんよくご存じでしょう。

  日本でも急速に患者が増えているという情報がある一方、最近は以前ほど、その怖さを

マスコミが取り上げることが少なくなったように感じます。しかし実態は、以前指摘されていた

同性愛者間よりも、ごく普通の男女間での感染が多くなっていると聞いています。

  B型肝炎ウイルスもSTDの一つです。

  急激な肝炎症状を起こすB型肝炎は、発熱、だるさを伴い、通常、高度な肝機能の異常が

みつかります。



  また、単純性疱疹も同様。以前は、顔面はA型、陰部はB型と明確に分けられていました。

理由は省略しますが現在では、その区別は無用になっています。

  その他、紙面の都合で詳しく説明はできませんが、疥癬、毛じらみ、尖型コンジローマ、

トリコモナス症、非淋病性尿道炎、陰部伝染性軟属腫、クラミジア、サイトメガロウイルス感染

など、多数の病気が知られています。


  健康かつ健全な日常を送っている方々には、STDの情報は必要ないことかもしれません。

ただ、どこでどういう人生が待っているかわからない世の中です。常識として、現状を知って

おくのも大事ではないでしょうか。そして、基本的には、不特定多数の人と性行為はしないこと、

防具をすることなどで簡単に防げることもよく理解し、周囲の人々、特に年頃の子供たちには

正しく伝えておくことが必要です。



  STDは、人間社会の、その時代、時代の有り様を示す病気かもしれません。治療はかなり

進歩しているといっても、感染しないためには、健全な、正しい性知識を持つことしかないのです。

  皮膚科学会は来年(2002年)百年の歴史を刻みます。しばらく前まで皮膚科は、ほとんどの

大学病院や総合病院で「皮膚泌尿器科」と呼ばれていました。それは、当初は多くの性病を

扱ったためだと思われます。


  性病は泌尿器の病気であるとともに、特異な皮疹を生じる皮膚の病気でもあるのです。

昭和30年頃よりそれぞれの専門性が拡大し、泌尿器科と皮膚科は分離し、独立した科目に

なりました。



  私が皮膚科に入局した当時は、まだまだ皮膚科への偏見は強く、皮膚科に入院している

ことは絶対に他人に話さないで欲しいと訴える患者さんが少なからずいました。恐らく皮膚科は、

性病などの、感染する病気だけを扱っていると勘違いしていたのでしょう。

  いまではまさか、そんな勘違いをする方はいらっしゃらないでしょうが、やはり多少は躊躇する

気持ちが働いたり、これくらいのことと面倒がったりして、受診が遅れてしまう場合もあるかと

思います。



  どんな病気でも、早いうち、軽いうちに手当てすることが良いのです。どうか少しでも不安な

ことがあったら、気軽に皮膚科を受診して下さい。