現代病草紙

−皮膚科の診療室より−

 
 

「床ずれ」はどうしたらいいのですか?

 

      


   西暦二千年十年には、六十五歳以上の老人が全人口の四分の一の約三千万人、寝たきり老人が

約百七十万人になると想定されています。そのうち五〜十人に一人は床ずれになると指摘されて

いるのです。この事実が他人事ではないことを、私たちは十分に理解しなければなりません。 

 

  床ずれ(正式には褥瘡《ジョクソウ》と言います)は、持続的な圧迫で生ずる皮膚の病変です。

皮膚が深くえぐれた状態(潰瘍《カイヨウ》)に至り、仰向けに寝た場合では、一番体重がかかる

腰の下方、仙骨《センコツ》部にできやすいのです。                

 

   なぜ床ずれが起こるか。脳卒中や脳梗塞などで動けなくなることが第一の原因。そして、加齢、

摩擦、ずれ、失禁、低栄養、やせなどがその発生を助長するとされています。床ずれの深さは、

圧迫の程度によって表皮まで(T度)、真皮まで(U度)、皮下組織まで(V度)、そして骨や

筋肉まで(W度)の四段階に分けられています。適切な処置がなされた場合、T度とU度の浅い

床ずれは元どおり治りますが、V度とW度の深い床ずれは瘢痕形成による治癒しかありません。

 

  そのため予防がきわめて重要になってきます。まず皮膚をよく観察しましょう。仙骨部などの

発生しやすい部位の発赤には十分注意してください。

 

(床ずれの発生を予測する指標があります。代表的なのがブルーデンスケール。

詳細は医師や看護婦、介護関係の人達に聞いてみるとよいでしょう)

 

  

圧迫している部位が見つかったらその圧迫を取り除く試みを行うことになります。これを

「体圧分散」といいます。例えば仰向けで二時間、そして三十度側臥《ソクガ》位を二時間

というように体位変換を繰り返すことなどです。全く動けない人の場合は、エアマットなどの

体圧分散寝具を使用するとかなり効果的です。また、坐ることができる方は、

できるだけ股関節九十度、膝関節九十度、足関節九十度で坐るようにしましょう。   

 

  無理な場合はクッションなどを利用してできるだけ九十度ルールを作るようにします。

大腿後面には骨突起がなく、支持面積が広いことから床ずれができにくいのです。

 

  大切なのは、日頃から皮膚を清潔にし、栄養を整えること。できるだけ自分で食事が

できるように工夫してください。最近では、動けない人でも使える自動食器や用具などが開発され、

目がかすむお年寄りでも白いご飯がよく分かるような黒い食器も出回っています。    

 

  こうした予防方法を、患者さんと家族の方が十分に理解することによって、床ずれはかなり

防げるのではないでしょうか。ぜひ、医師や介護を専門にしている方に相談してみてください。

 

  できてしまった床ずれは、まさに皮膚科の専門領域となります。最近の基本的な治療は、

@床ずれの黒い壊死組織を除去し、A感染を防御し、B外力から保護をし、さらにはC床ずれ部の

湿潤環境を維持すること。これらの方法によって早く治せることが分かってきました。そして、

床ずれの色調(黒色期、黄色期、赤色期、白色期)を判断しながらそれぞれにおける適切な治療が

確立されてきています。                  

 

   急速な高齢化社会が防ぎえない以上、床ずれの患者さんは当然増えるでしょう。しかし、もし

床ずれの予防ができるなら、患者さんやその家族にとっても、さらに病院関係者にも、その負担が

 金銭的にも労働的にも極端に少なくなります。ぜひ今日から、とにかく床ずれの予防を考慮して

ください。