現代病草紙−皮膚科の診療室より−



薬疹とはどんなことですか?


 薬を飲んでいる時に皮膚に発疹が生じると、それは薬のせいだと思っていませんか?

それが薬とは関係のない「かぶれ」でも「ヘルペス」でも薬のせいだと決めつけてしまう傾向が

あります。そのため、治療に必要な薬でさえ、何の相談もなしに、患者さん自ら勝手に止めて

しまうことがあります。そして、なぜ薬のせいだと思うのか訊くと驚いた顔をするので、こちら

のほうが驚いてしまいます。

  また薬を飲むと直ぐに発疹するという誤解もあるようです。つまり、初めて服用するわずか

一錠でも、薬疹が起こると思っている方がたくさんいるのです。



  薬疹とは、言葉通りに「薬によって引き起こされる発疹」で、様々な種類の皮膚病変が

知られています。



  一番多い発疹は、広い範囲に赤い斑点ができる「紅斑丘疹型」(こうはんきゅうしんがた)

と呼ばれるものです。

  まず、薬疹と考えるには、何らかの薬を服用していることが前提になります。そして、原則

として、初めて服用する薬の場合、一日か二日くらいですぐ、発疹することは滅多にないことを

知っておいてください。いずれにしても薬疹は、薬の服用中に生じ、ある日お腹や下肢に赤い

斑点(紅斑や丘疹)が出てきます。これはほとんどの場合、痒みを伴います、またその症状は、

下肢の一部のこともありますし、薬を止めなければ下肢から他の部位へと確実に広がります。

ひどい場合には全身にくまなく生じることもあります。大切なことは、それらの皮疹が概ね左右

対称であるということです。なぜなら薬は、濃度の差はあっても体内にくまなく行き渡るから

です。



  また、薬の種類によって薬疹のできる頻度と重症度は大きく異なります。かつてよく使用

されたピリン系やバルビタール系の薬はよく薬疹を起こしました。そのため最近ではほとんど

使用されていません。もちろんそれに替わる薬が開発されたためです。現在では、抗生物質や

抗炎症剤などが薬疹を引き起こしやすい薬です。残念ながらどんな薬剤でも、頻度は別にしても

薬疹を起こす可能性が指摘されています。



  一般的には薬疹を起こすまでの潜伏期間が必要です。つまり、薬を服用してその成分がその

人の体内に感作(認知)されることが必要なのです。その際、感作が早い薬(抗生物質など)と

遅い薬(降圧剤など)があります。一週間ほどで薬疹を起こす薬と数ヵ月以上服用してようやく

生じる場合があるのです。感作するとその状態は一生続くものと思ってください。その時は

治っても、再び原因薬を服用する度に発疹し、表われ方は早く重症になります。

  薬疹の疑いを持った時、特に多くの薬を飲んでいる場合、その判断は難しく、現在のところ

簡単な検査方法がありません。かなり確実な方法は、原因と思われる薬をごく少量服用して、

発疹するかどうか見ます。これは内服テストと呼ばれ、通常は可能性の少ない薬から始めます。

こうして原因が判明したら、私は「薬疹カード」にその薬名を書いて、保険証の中に入れて

もらっています。いざという時、役に立ちます。



  この他、体の一部だけに円形の赤みが生じる、やや特殊な固定薬疹型や全身に重篤な紅斑や

水疱を生じ、致死的なものもあります。また最近、薬疹とは多少意味合いが異なりますが、薬の

相互作用も重要な問題になってきています。抗ガン剤の服用中、抗ウイルス剤を投与されて

死者が出た、最近の事件を覚えている方もいらっしゃるでしょう。もしも薬を服用中に発疹が

出たら、自己判断をしないで医師に相談してください。必要があって薬を飲んでいるのです。

飲み続けるか止めるかは医師の判断に任せましょう。