アトピービジネスはますます
巧妙になっているのでは!?



“アトピービジネス”に関しては、金沢大教授・竹原和彦先生の報告に詳しい。

Visual Dermatology5月号にもその詳細が述べられている。


  先生はそれらの矛盾や不合理を冷静に世に問うて、皮膚科の地位を高めて

おられる。大学の皮膚科を乗り越えて、臨床皮膚科医たるすばらしい実績だと、

いつも敬意をはらっている。


  今回、それと共通する驚くべき体験をしたので、あえて報告したい。


  患者は55歳、男性、某医で掌蹠膿疱症と診断されてステロイド軟膏を

投与された。数日後、なぜかまったく知らない女性から「ステロイドは怖い薬

です。すぐに止めてください。ハーブ剤が効きますから、ぜひ東京の病院へ

行ってください」という電話を受けたという。


  その患者は多少疑問を感じながらも、群馬県からわざわざ紹介された東京の

医院に通った。ハーブ剤は1回およそ6万円ほど。症状は軽快するどころか

むしろ増悪したが、女性の言葉を信じておよそ10カ月ほど通い続けたと

いうのだ。


  私はその患者に「その女性の電話はおかしいと思いませんでしたか?」と

聞いてみた。「藁をも掴む思いだから不思議に思わなかった」との返答。

その女性の名前も住所もまったく知らないのにだ!私には不思議を通り

越して、不遜にも常識を逸脱した行為としか思えなかった。10カ月通って

さすがにおかしいと思ったときに、私の医院を紹介してくれる人がいた。



  両手足の皮疹はきわめて増悪しており、顕著な角化を認めた。痛みや

痒みの自覚症状も強かった。加療によってまもなく症状は軽快した。


 私の推定でしかないが、巷にはアトピー性皮膚炎に限らず、皮膚病患者を

捜し歩いている人たちがいるのではないだろうか?重症な皮膚病患者を

みつけることを生業として、職場・住所などを調べて、いかにも親身に電話する

というやり方だ。ときおり自宅に電話が来る“不動産”や“マンション”の

勧誘となんら変わることがない。もし本当ならばおそろしいことである。


  他科の医師からときおり耳にすることだが、一般の人々にも、皮膚科医が

甘くみられている一つの事実なのかもしれない。こうした現状を払拭するためにも、

皮膚科医は真面目に、そして患者を納得させる診察・治療に専心しなければ

ならない、とつくづく考えさせられた。


  そんなとき、某薬剤師からホームページを通して私に質問メールが届いた。

「1)ニキビの患者にダラシンを数年間連続投与していますが、皮膚科的に本当に

正しいのでしょうか? 2)美白クリームと称して、リドメックスやザーネ、ハイシー、

ヒドロキノンを薄めた軟膏を院内処方していますが、正しいのでしょうか?」

というものである。返答に躊躇した。


  前者のアトピービジネスまがいの商売には力強く反対意見を述べるが、

後者の薬剤師の質問にはホトホト困ったのである。


  私たち皮膚科専門医は、高度な診療・治療ができる可能性は高い。

しかしこの際、竹原先生も述べておられるように、アトピービジネスに近い

「皮膚科医」あるいは「医療」を警告・排除する努力も必要だと思った次第である。


<Visual Dermatology Vol.1 9月号2002年より>