スキンケア雑談



                                                        服部   瑛 
私は皮膚科を専門としている医師です。皮膚科は、特殊な科目と思わ れるかもしれませんが、皮膚は内臓の鏡でもあり(そういった現象を 専門用語ではデルマドロームと称します)、実際は皆さんが考えてい らっしゃるより重要な診療科目なのです。今回は、私の診療を通して 知ったスキンケアの一部についてお話ししたいと思います。 icon スキンケアとは「皮膚を世話する」ことです。そして、いろいろな方 法を用いて、快適な皮膚を維持することといえましょう。 しかしながら、最近患者さんのお話しを聞いたり質問したりしている と、スキンケアとは全く逆のことを平気でやっておられる方が沢山い らっしゃることを知りました。 icon 例えば1つの例として、お風呂に関するお話しをしましょう。最近は 昔と違い毎日お風呂に入る習慣がいつのまにか確立されてしまいまし た。多い人は1日3回以上も入っている人もいるようです。そもそも 昔、いまのように毎日入浴する習慣があったでしょうか。この背景に は、最近の日本人の潔癖習慣があるように思われ、またマスコミの宣 伝の影響も無視できないように思われます。 icon さて、お風呂に入ると石鹸を使用します。その際、石鹸を使って肌を きれいにすることはとてもいいことであるという先程の潔癖を期す考 え方から、石鹸をふんだんに使用し、さらに昔ながらにゴシゴシこす る方が多いように思われます。 皮膚は、その表面のいくつかの油の膜(専門的には、セラミドなど) で、体を外界の刺激や侵入物から守っているとても大切なバリアー機 構を持っているのです。石鹸は、洗浄剤としてとてもすぐれています から、そういった油類を落とす作用があり、使用頻度が多くなるにつ れてその作用が増強することはお分かりになると思います。つまり石 鹸を頻回に使用することで、皮膚にせっかく備わっているバリアー機 構がなくなってしまうという結果になってしまうのです。その結果、 皮膚が乾燥して痒くなったり、細菌やウィルスなどの微生物や化学物 質などいろいろな物質が体内に侵入してアレルギーが惹起されやすく なってしまうのです。 icon こうした生活習慣は、マスコミの宣伝でますますもっともらしくなっ てくるきらいがあります。例えば、固形石鹸より液体の石鹸の方がよ いとか、普通の石鹸より薬用石鹸や低刺激性の石鹸がよいといったよ うなことです。また、全く必要ないといってもよい浴用剤が、当然の ごとくどの家庭でも使用されるといった風潮も生じてきています。液 体石鹸は固形石鹸より使用量は多くなりがちであり、浴用剤の入った 大量のお湯が捨てられると、それらは、すべて家庭雑排水となり、環 境汚染の重大な原因となってしまいます。今や、河川の最大の汚染源 は、工場などからでる排出物より、こうした家庭から出される家庭雑 排水などであると言われております。 icon 私達の生活は、つい最近まで、物を大切に使い、それほど贅沢して来 なかったように思われます。そして、それでも決していろいろな面で それほど大きな生活の不便はなかったのではないでしょうか。しかし いつのまにか当たり前のこととしていろいろなものを、そして必要な いことまでやりすぎているように思われます。まさに、当然のごとく 毎日入り、石鹸でゴシゴシこすって洗うお風呂の習慣もその一つだと 思われます。 icon 適切なスキンケアとは、ほどほどの入浴とほどほどの石鹸を使用して、 あとは自分の持っている皮膚の正常な生理機能を十分に発揮させるよ うにするべきなのです。そして、年齢的に老化し皮膚が乾燥してきた ら、その時から適当な保湿剤を使用して肌にうるおいを持たせること だと心得て下さい。 (1997年9月のある講演より)