ステロイド外用剤に関して

  10年ほど続いている「さんぴ会」という我々仲間だけの小さな
皮膚科医の集まりがある。比較的時間に余裕のある第3火曜日の夜
に集まることから、「さんぴ」ともじって命名したものである。持
ち寄った臨床スライドを見ながら気軽に討論したり、ざっくばらん
にそれぞれの近況を話せる会合でもある。小人数のためか打ち解け
て話せるため、思わぬ貴重なあるいは興味ある情報が得られること
が多く、私の楽しみな会合の一つである。
                 
  先日も久し振りに某ホテルでその会合を行った。その際、話題に
なった一つの大きな問題がある。それは、ステロイド外用剤に関す
ることである。
                        
  最近は、マスコミ等でステロイド外用剤の怖さが喧伝され、我々
皮膚科医は、患者さんのステロイド外用剤に対する慎重な、場合に
よっては恐怖に近い対応を経験することが日常茶飯事になってしま
った。

  衆知のように、ステロイド外用剤は現在、その効力により5段階
に分けられている。この分類ができた経緯については、つまびらか
ではないが、現在、strongest、very strong、strong、medium、
weak の5段階があると我々皮膚科医は常識として認知している。
                                 
  しかしながらこの常識は、当然のことかもしれないが、どうも我
々皮膚科医だけのものらしい。現実には、患者さんにとってはステ
ロイド外用剤が怖いというだけで、その効力別分類を知らない場合
が圧倒的に多く、場合によっては医薬分業にかかわっている薬剤師
さんにも同様な人達がいるという驚くべき事実が報告された。その
事実とは、私の友人である皮膚科医が、strongest と weak の2
種類の軟膏を「院外処方」したところ、どちらもステロイドだから
止めたほうがよいですよという薬剤師さんからの患者さんへの指示
があったという事例である。恐らくこのようなことは特異な例とは
思われるが、最近はステロイド外用剤は怖いということだけが強調
され、その効力別分類の依存が隠蔽化されている印象を拭いえない。
このことは皮膚科にとってとても大変な問題を含んでおり、こうし
た偏った情報は早急に是正されなければならない。     
                                                     
  例えば、「皮膚の日」などを利用して、そうした偏った情報をマ
スコミなどを通して啓蒙すべきではなかろうか。いずれにしても多
くの皮膚科医は、いろいろな機会で、ステロイド外用剤の正しい情
報を提供すべきであると考えられる。
                    
  もう一つステロイド外用剤に関する興味ある話題があった。我々
が現在常識として考えているステロイド外用剤の強さを表現する程
度がやや強調されすぎてはいないかという点に関してである。現状
において我々皮膚科医は、very strong や strong の範疇の軟
膏を使用する機会が比較的多いと思われる。しかしながら、我々皮
膚科医はそれらの外用剤はその表現ほどには強いとは思っていない
のではあるまいか。一方、患者・薬剤師さんは
「 very strong、strong=非常に強い、強い」
という表現をそのまま受け止め、私達皮膚科医とのギャップが知ら
ず知らずのうちに生じているように思われる。そして患者さんは、
強いステロイド外用剤だからあまり使用しないようにしようという
発想になる可能性もあるように思われる。
                    
  ここで一つの提案であるが、例えば現在のステロイドの効力の表
現を控えめにして、strongest を strong 程度にその表現をマイ
ルドな方向で変更するような試みを考えてみてはいかがなものであ
ろうか( 実際はかなり難しい作業だとは思われるが )。そうすれ
ば、一般の人達に説明しやすいし、患者さんも現在より安心してス
テロイド外用剤の効能を理解してくれるような気がしてならない。

  最近のステロイド外用剤に関するマスコミなどのステロイドパッ
シングは、皮膚科医に一種の大きな危機感を与えているようである。
皮膚科の存亡にも大きく関連してくる事実のように思われる。今、
我々皮膚科医は、こんなことから着実に手をつけていかなければな
らないと思われる。

  先日、これと同じ趣旨の内容を「皮膚病診療」の「声の欄」に投
稿したが、これからは私自身もこうした情報を繰り返して提供して
いこうと思っているところである。
                         ( 日本臨床皮膚科医学会報より )

  ステロイド外用剤の使用に関しては、ことに顔面などでは十分な
注意が必要です。我々皮膚科医は細心の注意をはらってステロイド
を使用しております。特にアトピー性皮膚炎などでは、慢性疾患で
すので、強いステロイド外用剤、あるいは弱いステロイド外用剤さ
らに非ステロイド外用剤を組み合わせて使用してコントロールする
ようにしています。
                                             
  皮膚科専門医でのステロイド外用剤の一般的な使用は、悪い時に
適当なステロイド外用剤を短期使用し、その後は非ステロイド外用
剤に変更しているという事実を理解して下さい。正しい使用法であ
るなら、ステロイド外用剤は皆さんが思っている程怖いものではあ
りません。

  しかしどうしても怖いという人がいましたら、その具体的根拠や
疑問を是非我々皮膚科医に話して下さい。私も皆さんと一緒に考え
ていこうと思っております。メールを待っています。