じんま疹について


今回は、「じんま疹」についてお話しましょう。
多くの方は、じんま疹という名前はとてもよく知っておられるのですが、じんま疹という
病気に対してちょっとした誤解をお持ちの方もいるように思われますので、そんな点にも
少し触れながら話を進めたいと思います。


Q:「じんま疹」という病気の名前をよく聞きますが、一体どんなもので  
すか?

多くの方は、体に赤く、痒いものが出来ると、すべてじんま疹だと思っている
ようです。ところが実際は「湿疹(しっしん)」のような皮膚病の方がずっと
多いのです。それだけじんま疹という名前が有名なのかもしれません。
じんま疹とは、皮膚における一過性の限局性の浮腫をさしています。一過性と
は、数時間、多くの場合2〜3時間でその発疹が消えてしまうという意味です。
限局性の浮腫ですから、通常は皮膚面から盛り上がった状態で、多くの場合赤
みを伴っています。また、多かれ少なかれ、じんま疹は痒みを伴ってきます。
この発疹は、俗に、「みみずばれ」と呼ばれているもので、正式には「膨疹
(ぼうしん)」といいます。数時間でいったん消えた膨疹はまた再発すること
が多く、一定の間隔で繰り返し出没することが普通です。この膨疹発作が数回、
あるいは2〜3週間の出没で治ってしまうものを急性じんま疹といい、1ヶ月
以上に及んで反復するものを慢性じんま疹といっています。最近、外来で診て
いますと、この慢性じんま疹の患者さんが増えているように思われます。


Q:膨疹(みみずばれ)は、どうして起こるかどこまで分かっていますか?

いろいろな原因がありますが、最終的には皮膚の真皮での細い血管(毛細血管)
の透過性を亢進させる化学物質が、ある細胞(主に肥満細胞と呼ばれているも
のですが)から遊離されて、その作用で、血管内から血管の外にさまざまな物
質が漏れて、膨疹、つまりじんま疹が出来ることが分かってきました。それら
の化学物質のうち、特に重要な役割を果たしているのが、「ヒスタミン」とい
う物質です。このヒスタミンなどを発生させる機序には、いろいろなものが関
係していますが、一番よく知られているものが、時々耳にするアレルギーと呼
ばれているものなのです。アレルギーとは、ある「抗原」とそれに対応する
「抗体」との、抗原抗体反応の結果生ずる反応で、結論的には、人体に有害な
作用を及ぼす反応を「免疫」といっています。これ以上は難しくなりますので、
別の機会にお話しましょう。余談ですが、皆さんの多くは「アレルギー」とい
う言葉はとてもよく知っておられますが、その内容に関しては意外と理解され
ていないように思われます。


Q:「じんま疹」は食べ物で起こるとよく聞きますが、本当ですか?

以前から例えば、エビやサバを食べるとじんま疹が出来たといった話をよく聞
きます。ですから、大部分の方が、じんま疹は、食べ物が原因だと思っておら
れるようです。確かに食べ物でじんま疹が誘発されることはあります。しかし、
その頻度は実際は思っているより少ないようです。ある皮膚科医は、あきらか
に食べ物が原因のじんま疹は全体の2〜3%以下でいかないと報告しています。
その理由の一つとして、昔は冷凍技術がまだ未発達で、そのために魚のような
生き物が腐りかけてしまい、その際生ずるトリメチルアミンといったような物
質がじんま疹の原因になっていたために、以前は食べ物によるじんま疹が多か
ったと言われています。現在のように冷凍技術の進歩など、食品の管理がしっ
かりしてくると、そうしたじんま疹は極端に少なくなってきたといえます。
しかし、今度は食品の管理に使用する防腐剤やあるいは鮮度をよく見せようと
する人工着色料などがじんま疹の原因として問題になってきています。つまり
そうした物質の中にじんま疹を誘発させるものが含まれているのです。困った
ことですね。なお、食べ物の中には、たとえばヒスタミンのような、じんま疹
を引き起こす物質が含まれているものがあります。代表的なものでは、山芋、
貝、ほうれん草、ソバ、たけのこなどですがこういったものを「仮性アレルゲ
ン」といって、アレルギー性のじんま疹とは区別されています。山芋を食べて
痒くなった経験はありませんか。


Q:食べ物で起こるじんま疹が少ないとすると、どんな原因が多いのですか?

大部分のじんま疹は、その原因は不明のことが多いのです。しかし、いくつか
の特殊なじんま疹が知られています。代表的なものに、「寒冷じんま疹」があ
ります。これは、氷や水に触れたり、冷たい風に当たった部位にじんま疹が生
ずるものです。逆にお湯などの温かいものに触れて生じる「温熱じんま疹」と
いうものもあります。ひっかいたり、物に当たった部位にじんま疹の出来る方
はいませんか?そうしたじんま疹は「人工じんま疹」あるいは「機械性じんま
疹」と呼ばれています。試しに、ボールペンの柄などで皮膚を比較的強く、線
を書くように擦ってみて下さい。そうした方は、そのひっかいたとおりに膨疹
が生じてきます。以上のように物理的な刺激で生ずるじんま疹を、「物理性じ
んま疹」と総称しています。その他、日光で起きる「日光じんま疹」や、外界
からの物質、例えば食べ物などが皮膚に触れた部位に生ずる「接触じんま疹」、
発汗、運動、精神的なストレスに際して小さい膨疹の生ずる「コリン性じんま
疹」などが知られています。さらに精神的なストレスなどで生ずる、「心因性
じんま疹」や風邪をひいた時などに生ずる「感染性じんま疹」などもあります。
しかしながら、先程述べましたように、こうした明らかに原因をみつけられる
じんま疹はこくわずかで、わけが分からずにじんま疹が続く患者さんが圧倒的
に多いのが現状です。恐らくそういった患者さんは、いろいろな原因が入り交
じっている可能性があると思われます。


Q:じんま疹の治療はどうなっていますか、また注意することはありますか?

急性じんま疹などはすぐに治ってしまいますから、それほど問題にはならない
ことが多いようです。特殊なじんま疹、たとえば寒冷じんま疹の場合には、寒
い所、冷たいものを避けるということで予防できますし、日光が原因で生ずる
日光じんま疹の場合では日光を遮断すれば予防できます。こうした原因の分か
っているじんま疹は、その原因を除いたり、避ければよいわけです。しかしな
がら、慢性に経過し、原因のわからないじんま疹は、一般的に難治性のことが
多いようです。この場合にはやはり医師による定期的な治療が必要になってき
ます。じんま疹の治療薬の代表的なものには、ヒスタミンの活性を抑える「抗
ヒスタミン剤」があります。その他、最近ではいろいろな種類の「抗アレルギ
ー剤」が出ており、症状に応じて使い分けることで、抗ヒスタミン剤と同様に、
大部分のじんま疹を抑えることが出来るようになってきました。特に慢性じん
ま疹の患者さんは、医師の指導に従って内服を続けられたほうがよいでしょう。
一般的に言えばじんま疹は、ストレスの多い時や体調の悪い時などに生じやす
いといえます。ですから、じんま疹が出来たら、体の注意信号と思い、出来る
だけ体を労ってあげることがとても大切です。