皮膚感染症について


皮膚に感染する疾患はとても数多くあります。お年寄りになるにつれて、抵抗力が弱まってき
ますから当然、皮膚感染症は多くなってきます。今年のように猛暑の後では、なおのこと十分
に注意しなければなりません。
今回は、お年寄りに多い皮膚の感染症についてお話しましょう。


Q:皮膚に感染するとは、一体どんなものでしょうか?

一般に、病原微生物と呼ばれているものです。いろいろな種類があります。
代表的なものとして、真菌、細菌、ウィルスなどがあります。それらの違いを
簡単に説明するのは難しいのですが、真菌は、俗称「かび」のことを指してい
ます。梅雨時に、ほっておいた食べ物などによく発生しますから、なんとなく
分かると思います。その「かび」のある種のものが皮膚に感染(寄生)する場
合があるのです。細菌は顕微鏡で見える程度の微生物であり、ウイルスはもっと
ずっと小さく、電子顕微鏡でようやく確認できる程度の大きさの微生物と考えて
下さい。そうした微生物が皮膚に感染(寄生)する状態を皮膚感染症と言いま
す。


Q:それでは、水虫も皮膚感染症ですか?

そのとおり、最も代表的な真菌(かび)による皮膚感染症です。正式には白癬
菌(はくせんきん)というかびが原因です。このかびは皮膚の中の角質を食べ
て生きています。多くの方は、水虫はかゆいと思っていますが、実際は自覚症
状はあまりありません。そのため、少しずつ進行してかびにとって大好物の角
質が特殊に分化した爪の中に入り、爪が厚く白濁した状態になってきます。さ
っそく、ご自分の足の爪を観察してみましょう。特に、お年寄りの方は、そう
した爪の変化を認めることが多いように思います。
最近、とても良い水虫の薬(抗真菌剤)が出てきましたから、試してみたらい
かがでしょうか?
水虫の患者さんは、知らず知らずのうちに水虫の原因のかびをたたみやお風呂
のバスマットにたくさん落としてしまいます。そのため、家族やまわりの人に
伝染(うつ)してしまいます。気をつけて下さい。
水虫のかびが股につくと有名な「いんきんたむし」になります。顔とか首すじ、
体部につくと「ぜにたむし」、さらに頭では「しらくも」と呼ばれています。
昔よく聞いた皮膚病の名前ではありませんか。


Q:細菌による皮膚感染症は、どんなものがありますか?

お年寄りだけに限りませんが、細菌による感染症の一つに、俗に言う「おでき」
があります。「ふきでもの」あるいは「ねぶと」といった方がわかりやすいか
もしれません。主にぶどう球菌という細菌が皮膚に感染して起こる皮膚病です。
赤く腫れて、とても痛いのが特徴です。しばらくすると膿(うみ)が出て治り
ます。顔に出来ると「面疔(めんちょう)」と言って、昔は恐れられました。
その他、「丹毒(たんどく)」と呼ばれる病気も聞いたことがあると思います。
これは連鎖球菌と呼ばれる細菌による皮膚感染症で、高熱とともに皮膚に浮腫、
紅斑を生じてくるものです。
こうした細菌に対して、ペニシリンなどの抗生物質という薬が開発されて、と
てもよく効きますから、安心して、早めに治療を受けて下さい。


Q:帯状疱疹(たいじょうほうしん)という病気がお年寄りに多いと聞きまし
たが?

帯状疱疹とは、不思議なことに、体の片側のみに生じる皮膚病です。
具体的には、顔や体幹の片側に、小さい水疱が集まって帯状になる状態です。
大部分の患者さんは、多かれ少なかれ、その部位に痛みを伴います。ひどい場
合には痛みのために眠ることも出来ません。
その特異な臨床と痛みのためでしょうか、多くのお年寄りの方はこの病気の名
前をよく知っておられます。あるいはもうすでにかかった方も多いと思います。
原因はウイルスによるもので、「水痘・帯状疱疹ウイルス」と呼ばれるもので
す。水痘とは水ぼうそうのことですが、水痘という言葉が示すように、このウ
イルスは、子供の頃水ぼうそうにかかった時に体に入り、ずっと長い間、体の
中の神経節の中に隠れ住んでいるのです。そして、免疫力が落ちてくる時期に、
体の表面に出てくるのです。
若い人でも疲れやストレスがたまったり、あるいは大きな病気にかかった時な
どにこの病気になりますが、やはり抵抗力の弱くなってくるお年寄りの方に多
い傾向があります。また、重症化しやすいようです。おもしろいことに、この
病気は一生に一度しかかかりません。子供の頃に大部分の人は水ぼうそうにか
かりますから、ほとんどの人はこのウイルスによる抵抗力を持っています。で
すから、帯状疱疹は一般的にはうつりません。ただし、水ぼうそうにかかった
ことのないお子さんには水ぼうそうとしてうつる可能性がありますから気をつ
けて下さい。
ときどき「私は、絶対に!水ぼうそうにかかったことはありません」とおっし
ゃる方がいますが、実際は、子供の頃に症状が出なくても水ぼうそうのウイル
スが入っているのです。こうした状態を不顕性(ふけんせい)感染と言ってい
ます。
帯状疱疹の治療に関しては、最近、抗ウイルス剤と呼ばれる特効薬が出来まし
たから、早めに治療を受けることをお薦めします。帯状疱疹は、治るまでにふ
つう、2〜3週間かかりますが、適切な治療で、痛みがすぐになくなります。
治療時間も短縮できるようになりました。
一部の方では、特に治療が適切でない場合はそうなりやすいのですが、帯状疱
疹が治った後に受傷部位を中心にして、神経痛様の痛みが長く続く場合があり
ます。「帯状疱疹後疼痛」と言って、とても苦痛な合併症とされています。
なお、疱疹のことを、別名ヘルペスとも言っています。ですから、帯状疱疹
は、帯状ヘルペスとも言います。


Q:ヘルペスといえば単純(口唇)ヘルペスという病気もありますが?

やはり小さい水疱を、主に口のまわりに生じてくる病気です。普通は1〜2週
間で自然と治ってしまいます。これも、ウイルスによるものです。帯状疱疹の
ウイルスと違って、単純ヘルペスウイルスと呼ばれるウイルスの皮膚感染症な
のです。疲れたり、風邪をひいた時などに、生じやすいので、俗に「風邪熱
(かぜねつ)」とも言っています。日光の紫外線も増悪因子の一つです。無理
をしてゲートボールをやった後などに、口のまわりに出来てくる人はいません
か。
自覚症状は、帯状疱疹と違ってそれほど痛くありませんが、多少の痛みあるい
は違和感として感じられます。
帯状疱疹との大きな違いは、帯状疱疹は、先程お話しましたように一生に一度
しかかかりませんが、この単純ヘルペスは、困ったことに何度でも生じてきま
す。
性器にも同様の症状を呈してくる場合もあり、性器ヘルペスと言っています。
症状は口のまわりの場合とほとんど同じです。婦人の性器ヘルペスを持ってい
る人は、最近、子宮頸癌を生じやすいと言われていますので、十分注意して下
さい。
このウイルスに対しても最近よく効く抗ウイルス剤が開発されています。特に
水疱の出る前のかゆみや軽い違和感のある時期に服用すると大変よく効きます
ので、医師によく相談してみて下さい。  (みーつけた1994年11月号掲載より)