コラーゲンなどという用語について

「純粋なコラーゲンができました」近頃よく放映されるこの手のテレビ
コマーシャルを見るにつけ、私は内心、困ったことだと感じています。

最近こうした皮フ科に関する医学的な用語が、ごく当然のようにマスコミなど
から発信されているように思われます。例えば、アトピー、アレルギー、セラミド、
ステロイド、体質改善、自然化粧品などなど。
何人かの患者さんに「コラーゲンとはどんなものですか?」と聞いてみました。
もちろん言葉そのものはよく知っていましたが、内容に関してはほとんどの方は
首をかしげているだけでした。コラーゲンという用語だけが先行しており、驚いた
ことに「それが入っていない化粧品はまともではない」といった返答まで耳に
してしまいました。
コラーゲンは皆さんが思うほど特殊なものではありません。皮フの真皮結合
組織の大部分を構成している、ごくありふれた成分なのです。最近の研究では、
コラーゲンにもいろいろな種類のものがあることが分かってきました。

話を戻しましょう。「純粋なコラーゲン」とは一体何をさしているのでしょうか?
まずどこから入手したコラーゲンなのでしょう。常識的に考えて、人体から
採取したものではなさそうです。さらに、いろいろな種類のどのコラーゲン
なのでしょう。私には今もって「純粋なコラーゲン」などという言葉の意味
が全く理解できないでいます。医局時代、コラーゲンの研究に携わった
私としては、「全く意味不明な言葉の一つである」と言わざるをえないのです。
同じ発想で「アトピーやアレルギーがあるから、体質改善をしなければなり
ません」という月並みな説明もよく聞きます。「ステロイドはとても
怖い薬だ」とも。
私たちは、同じ言葉を繰り返し繰り返し聞くことによって、先入観を
持ってしまう傾向があるのではないでしょうか。その際、テレビや雑誌
などのマスコミが、重要な媒体になっているように思われます。いつの
まにか洗脳されているといったら言い過ぎかもしれませんが、私には実際の
ところ、それがまさに現実であると思えてなりません。
今私は、患者さんにできるだけそうした用語の説明をするように心掛けて
います。何故ならば、コラーゲンなどの医学的な専門用語はそれだけで、
一般の人達に妙な安心感を与えているように思うからです。その安心感
がいずれ大きなトラブルのもとになる可能性も潜んでいると感じています。
コラーゲンと聞いて、何となく安心してはいけません。体質改善やセラミドも
同じことです。いったん冷静になって、それらの用語を自分は本当に理解
しているのか、もう一度考えてみてください。
皮フに関するいろいろな情報を耳にし、手に入れることのできる今の社会
は、決して悪いことではありません。しかしながら、皆さんは、それらの
情報を正しく知り、振り回されない生活感覚を持つ必要があります。
そんな時、是非皮フ科専門医に相談してみてください。私たち皮フ科医は
皮フ病を診て治療するだけではないのです。正確な皮フ情報も提供しな
ければならない専門家でもあるのです。

<皮フの手帖VOL.22より>