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2002年6月25日更新


 ― プロトピック軟膏にまつわる問題について ―その3― 

 前回、プロトピック軟膏が眼に入った場合どのような症状が
おきるか、動物実験でもよいから、ぜひ検討していただきたいと
この欄でお願いした。早速、(株)藤沢薬品の学術の製品担当者が
資料をもって私の医院に来てくださった。

 その表題は、「FR900506軟膏のウサギにおける眼粘膜刺激性試験」。
その資料を要約すると、0.1%および0.5%プロトピック軟膏を、1)
角膜、2)虹彩、3)結膜に塗布し、2、24、48および72時間
後に観察した結果、すべての眼組織で異常は観察されず、角膜上皮に
対する障害も認められなかった、というものである。

 やはりそうかと得心した。このことからプロトピック軟膏が眼に
入ることに関してはそれほど神経質にならなくてもよいように思われた。

 今冬、私はプロトピック軟膏を自ら試みた。軽症ながら私もアトピー
性皮膚炎患者だからである。予想したごとく、塗布後からホテリ感を
感じた。もしも何も知識がないならば、びっくりするほど強烈なホテ
リ感だった。しかし予備知識があると、不安感が払拭されるのでさほど
でもない。ホテリ感に関する患者さんへの説明は、きわめて重要である
と思われた。

 プロトピック軟膏の基剤は、かなり硬く、顔面左右、額と3回ほど
チューブから軟膏をとり出して塗布しなければならない。しっかり塗布
しようとすると、その量は決して少なくはない。

 瞼に関しては、眼を軽くつぶって、横方向に全体につけるように
すると、ほぼ眼周囲全体に塗布できることがわかった。綿棒を使用
して、2mmとか3mmまでなどといったむずかしさはない。

 また、軟膏を3、4日つけないと、高温の環境下でホテリ感を感じ
るので、それ以内の連続塗布が必要だと実感した。

 今回のプロトピック軟膏の眼に関する疑問にすぐに対応してくれた
(株)藤沢薬品には心より感謝したい。こうした最新の情報はやはり
貴重である。これを機会に、妊娠中のマウスなどでプロトピック軟膏を
全身に塗布して、胎児に影響があるかどうかという実験などを提案した。
人間とはもちろん同列には語られないだろうが、貴重な情報となるはず
である。

   現在、プロトピック点眼薬、そして小児用のプロトピック軟膏の
治験中であると聞いた。免疫抑制剤タクロリムスはさまざまな可能性を
秘めた薬剤なのであろう。日本人によってつくられた、この製剤の
新たな展開を心から期待したい。

(皮膚病診療,24:705,2002より)



 ― プロトピック軟膏にまつわる問題について ― 

 プロトピック軟膏が発売され、すでに2年近くになる。
私の医院では、平成11年12月〜12年9月まで253名について
その効果などを検討し、先日報告させていただいた。

 その結果、ほてりなどの刺激感という副作用は、実に77.9%にも認められた。
しかし、その70%は3日以内に、最長でも2週間以内にほとんどが消失する
ことがわかった。

つまり、ほてり感が出てもなんとか我慢してつけていれば、
アトピー性皮膚炎の顔面の赤みや痒みはおおむね改善できるようである。
最近、長期の塗布で、頸部のさざなみ様色素沈着にも有効である印象をもっている。
この事実は、患者さんには朗報であろう。
それを裏づけるデータとして、初診のみで以後来院しなくなった患者さんは
253例中17名(6.7%)でしかなかった。
いかにリピーターが多い薬剤か実証されたように思われる。


 ちなみに、最近配布されたプロトピック軟膏安全性情報(8)では、
ほてり感を含めた副作用は40%とのことであるが、
ほてり感の評価に関して多少疑問に感じる報告である。

 そのほか、副作用と考えられている毛嚢炎は、プロトピック軟膏を
塗布した結果生ずるというより、季節的な変動や月経(女性)との
関係のほうがより大きな影響を与えているという印象を受けた。
さらにKaposi水痘様発疹症は、現在まで2例のみである。
その2例は以前にも何回か同様の発疹を経験しているので、
一概にプロトピック軟膏の副作用だけとは断定できないように思われた。

 使用説明書には、妊婦あるいは授乳中のプロトピック軟膏の使用を制限しているが、
そのためにその期間、患者さんの顔面病変はおおむね悪化することが多く、
妊娠、授乳中というたいへんな時期の患者さんの愁訴を考えると断腸の思いである。
私個人の意見としては、顔面だけ塗布する場合、タクロリムスの
血中濃度が上昇するはずもないと思っているのだが…。
現在、小児用のタクロリムス軟膏を開発中と聞いているが、
同時に妊婦・授乳中の使用制限に関しても早期の適正な見解・是正が望まれる。

 また、使用説明書の中の、「手をよく洗い、清潔にしてからお使いください。
また、塗り終わったあとは、塗った指をきれいに拭いてください」
という記載がみられるが、本剤使用の有無にかかわらずごく当たり前のことで、
実は意味不明な項目ではあるまいか。これらの記載から、一部では
とても怖い外用剤との印象をもつ患者さんがいることも否定できない。

 最近、プロトピック軟膏を使用して問題を感じる症例は、
多くの先生方も同意してくださると思うが、眼周囲のみに皮疹を残す
特異な臨床である。この臨床はかつてのアトピー性皮膚炎では
あまり経験しなかったものである。まだ数例の経験でしかないが、
その特異な顔貌は患者さんに新たな苦痛を生み出している。
 
 このように多くの有効例を認める中で、プロトピック軟膏に
まつわるいろいろな問題が生じてきているように思われる。
アトピー性皮膚炎を研究・専門にしている先生方、そして
担当する製薬会社のできるだけ早期な、具体的な検証と
適切なご指導を心から望みたい。

(皮膚病診療,23:1158,2001より)





 ― プロトピック軟膏にまつわる問題について―その2 ― 

 前回、プロトピック軟膏の253例の使用経験をかい摘んで報告させていただいた。

 眼周囲の皮疹に関しては、森俊二先生(前岐阜大皮膚科教授)より同様症例のある
事をお葉書でご指摘いただき、やはりそうだと得心した。おそらく塗布できない、
あるいはしにくい部位の特異な現象と思われる。塗布不可能な、ごく一部に残った
皮疹の痒みの掻破のため生じるのではないだろうか?あくまでも私見であるが、
プロトピック軟膏の副作用ではないだろうと推察している。ちなみに私の症例は、
紹介した群馬大学皮膚科での適切な治療で軽快した。その後、その患者さんは
当院でプロトピック軟膏の使用を継続しているが、本人の掻破への自覚もあり、
現在のところ眼周囲の同様皮疹の再発はみていない。その後、もっと軽度な
眼周囲の皮疹をもつ患者さんの症例が数例追加されてはいるが…。

 プロトピック軟膏が眼に入った場合、どのような症状がおきるのかはとても
興味深い。是非動物実験などでもよいから、今後検討していただきたい重要な
事項である。意外にも、濃度などを十分に検討すれば大丈夫かもしれないと
考えている。

 先日、遠方の某皮膚科で、まったく説明なくプロトピック軟膏を投与された
という患者さんが来院された。その患者さんは転勤前には私の医院に通院していて、
顔面には白色ワセリンしか処方していなかった。プロトピック軟膏塗布後の
ほてり・刺激感にびっくりして、その使用を即座に中止し、わざわざ私の医院に
訪れて事の顛末を話してくれた。プロトピック軟膏の副作用に関する説明書すら
渡されなかったと語っていた。その事実に私もびっくりしてしまった。
どんな事情があろうとも、皮膚科医はプロトピック軟膏のほてり・刺激感に
関する副作用は十分に説明する義務があるように思われる。些細なことかも
しれないが、皮膚科医の専門性が、患者さん・他科に広く認知されるためには、
地道な説明(インフォームド・コンセント)は省いてはならない。これは
ごくまれな例であろうが(残念ながらいままでに何例かそうした経験を
もっている)、皮膚科専門医はこうした実践をおろそかにしてはいけない
のである。生意気ながら、あえて警鐘を発したい!
 群馬県前橋市の倉繁田鶴子先生から、いわゆる痒疹タイプの皮疹に
プロトピック軟膏が奏効するという貴重なご意見をいただいた。本当だろうか
と思いつつそうした患者さんに相当数使用してみたところ、全例ではないが、
かなりの頻度で効果が認められた。その作用機序は定かではないが、
新しい痒疹治療の選択肢になることは断言できそうである。ぜひお試しいただき、
その成果をご報告いただきたいと思っている。

 新しい外用剤、プロトピック軟膏は大切に使用すべきである。決して
ステロイド軟膏の轍を踏んではいけないのである。

(皮膚病診療,24:466,2002より)







プロトピック軟膏が1999年の11月下旬から、藤沢薬品より発売されました。
この軟膏は、16歳以上のアトピー性皮膚炎患者に限定された、
初めての免疫抑制剤の外用剤です。

 今まで数十例に、厳密に注意しながら使用しましたが、
とてもよく効くという印象です。
特にアトピー性皮膚炎の「あから顔」に有効です。

詳しい注意事項は、「アトピー性皮膚炎-その2」を参照して下さい。

※この軟膏は現在のところ皮膚科専門病院ないし医院しか
処方できませんので、注意して下さい。




プロトピック軟膏について−第2報−

1999年の暮れから、アトピー性皮膚炎の患者さん およそ100例に使用した印象を簡単に報告します。
私が経験した100例中まだ離脱者はいません。

 今のところつけてもらう範囲は、全例顔面(一部頸部を含める)だけです。
軟膏をつけてみて程度の差はありますが、およそ3日間ほど
「ほてり」感を70%前後で認めました。ごく稀に、「ほてり」のため
翌日眠れない方もいらっしゃるようです。しかしその「ほてり」感を
我慢していると皮疹、痒みともに劇的とも言えるほどの軽快を認めます。

特に「あから顔」の強い人ほど効果は顕著でした。
また「あから顔」の強い人は、それ以前多大な苦痛を感じているせいか、
プロトピック軟膏の「ほてり」感などは軽微な症状と思われます。

 最近、当院職員そして私は、患者さんとの嬉しい対面をしています。
「あから顔」の軽快した患者さんのすがすがしさが、印象的です。
プロトピック軟膏は、今のところ極めて有効な軟膏だと断言できます。

今後は使用法などに関して多くの皮膚科医と検討していく予定です。
くれぐれも使用上の注意を守って使用してください。



プロトピック軟膏についてー第3報ー

 その後、100例以上のアトピー性皮膚炎の患者さんに使用を続けています。
前回離脱者はいないと書きましたが、その後10数名の患者さんが来ておりません。
理由は不明です。

 全体的には、やはり有効な軟膏です。紫外線の強い春になってきたので、
2日に一度つけるように指示しています。つける範囲は今のところは
顔面・頚部のみです。

特に「あから顔」の患者さんには、とても良い軟膏です。

ほとんどの皮膚科専門医にあると思いますので、相談してみて下さい。
日光・暑さ等でほてりが強くなるようなことがありましたら、メールでご連絡下さい。



 プロトピック軟膏について―第4報―


アトピー性皮膚炎におけるプロトピック軟膏の使用経験


※このデータは、6月18日(日)第1回プロトピック研究会で報告したものです。
 

プロトピック軟膏について−第5報−

現在(2000年12月)およそ400例ほどの患者さんに使用しています。
やはりすばらしい軟膏です。およそ3日間ほどの「ほてり」を我慢することで
快適な生活が保障されます。
 ただし、止めるとまた以前の状態に戻ることに十分注意しましょう!
一部の患者さんは良くなると治ったと思い治療を中断しています。困ったことです。
現在顔以外の治療を大学を中心にして検討しています。
副作用に関しては顔面・頚部のみ使用の場合はほとんど心配ないことを
再度報告致します。何故ならば、その程度の塗布ではプロトピック軟膏の
血中濃度が上昇するとは思えません。1日10gまでの使用が
可能とされていますが、顔面のみでは一般的には1本(5g)で
約1ヶ月程度使用できるようです。安心してご使用下さい。

なお長期連続投与で頚部などの「色素沈着」や「シワ」なども消失することが
報告されてきました。