迷惑メールとその周辺


 新聞で「ネット中傷に実刑」という記事を見た(朝日新聞、平成15年11月5日)。
ようやくネット上の犯罪的な書き込みに司法のメスが入った画期的な判決だと思った。
 インターネットは、誰でも簡便に情報を利用・共有できる利点がある。その結果今や、
インターネット上では、あらゆる分野での情報が氾濫している。もちろん医療においても
然りで、患者さんの多くはインターネットで医療情報をかなり調べているフシがある。
それらの情報が客観的に正しく、また好意的であるならば、これほど便利で有用な
ものはない。しかしなかには、独りよがりで、違法な情報も沢山存在している。
困ったことだが、インターネットの性格上致し方ない。

 先日私のHPの質問コーナーに、
“あなたの医院「はっとり皮膚科」は不親切を通り越して心外な返答が帰ってくると有名です。
本当に「医者」ですか。ご自身にプライドはあるのですか?”
というメールが舞い込んだ。びっくりした。
ほぼ毎日寄せられていた質問に精一杯対応し、また返答に対するお礼も多かっただけに
ショックだった。しかし多忙のため、実際はそろそろ質問コーナーを止めなければならない
状況だったので、「あなたのお陰でようやく質問コーナーを止める決心がつきました」と
感謝の意のメールを送って、ほぼ6年間にわたった質問コーナーを思い切って中止した。
その後はぴったりと質問が来なくなりホッとしている反面、幾分後悔の念にかられている
というのが現状である。

 この間数多くの質問メールを拝見したが、本当に質問コーナーが必要だったか疑問である。
患者さんが何を悩み、何を求めているかを具体的に、また診療とは違った側面から知ることができ、
私自身には有益な場であった。真面目にセカンドオピニオンを求めるメールが印象的であったが、
返答に窮する場合も少なくなかった。したがって、返答の最後に「皮膚科専門医を受診してください」
という逃げ口上を付け加えることが多かったように思う。

つまるところ、インターネットでの質問は一方通行でしかない。

 某医師の小児用プロトピック軟膏への“発癌性”を視点とした一方的な反論は、インターネット上では
他の意見と同等に扱われるが、専門の皮膚科医は首を傾げざるえない。アトピービジネスの
宣伝・扇動もまさに然りである。基本的にインターネット上では、客観的な正当性は無視されることもあり得る。
 そんななか日本皮膚科学会のHPでは、正しい皮膚科情報を発信しており、インターネットでの
情報氾濫のなかで、その試みはきわめて重要と思われる。

 インターネットは、好むと好まざるとにかかわらずこれからますます発展し、その必要性を増してくる
であろう。日本皮膚科学会、そして日本臨床皮膚科医学会は、皮膚科においてそのチェック機能を
果たす役割を担わなければならないと、今回の報道でつくづく思った。

(高崎市 服部 瑛)
(皮膚病診療、1月号、2004年)