スキンケア

 アトピー性皮膚炎治療ガイドラインの中で「スキンケア」という用語が取り上げられてから、
俄かに注目されている言葉である。
 しかしながら、「皮膚科医へのアンケート調査」1)を行ってみて、皮膚科医の中で
スキンケアのコンセンサスが本当に得られているのか多少疑問に感じた。スキンケアの
“実際”は意外と難しいように思われる。
 スキンケアの根幹は、“角質層の保護”に尽きる。角質層の良好な環境を保持するために、
保湿・外用剤、さらに入浴・洗浄剤などさまざまなものが俎上にのぼってくる。
 前回「外用療法ストレッチ」を報告した。重複する部分もあるが、私だけのスキンケア論を
あえて述べたい。

 1)多くの人たちは入浴し過ぎてはいないだろうか。群馬県では毎日の入浴が当たり前で2,3)、
   さらに最近日帰り温泉が激増している。日帰り温泉で心地よい入浴(?)に満足すればするほど
   皮膚は乾燥するはずである。何故ならば、有料で、効能があると思われる温泉へ行けば何度も
   入浴するだろうし、備えられている用具でまめに洗浄していると推定されるからである。

 2)しかし皮膚が乾燥していることへの実感は意外にも疎い。多くの患者さんは、
   いい加減な入浴しかしていない私の肌を触ってはじめて乾燥皮膚を体験・実感する。
   当然親子ともども乾燥していることが多いが、残念ながら私の汚い肌に触れないと
   わかってもらえない。

 3)「毎日お風呂に入っているが、石鹸は使いません」と断言する患者さんもいる。
   湯に浸かるだけでも角層は乾燥に陥るデータがある(図1)。体によいと思って
   1時間以上入浴している人は予想以上に多い。



 4)プールでは塩素が入っているので、帰ってから塩素を落とす目的で、一生懸命
   洗う人も多い。塩素は水に溶けている。そのため適切なシャワーだけでも十分に
   洗い流されるはずで、その後の入浴はそれほど必要ないと考えられる。

 5)“おっぱい”しか飲めない乳児を毎日きれいにしようと入浴させている親は多い。
   「何故?」と聞くと親はびっくりして私の顔を見つめる。「赤ちゃんは消化管が未熟だから
   “おっぱい”を飲ませるので、成長したら普通の食事にするでしょう。皮膚も乳児では未熟で、
   そんな時期によく洗ったら皮膚は乾燥しませんか?」というまわりくどい説明で、
   ようやく納得してくれることが多い。

 6)祖父母が、乳児を持つ母親に「そんなにお風呂に入れなくともいいよ」と助言しても、
   今の若い親は聞く耳を持たない。古い人の言うことなんかと・・・・・。思うに、
   ずっと長い間継承してきた文化が廃れてきているのではないだろうか。専門家である
   皮膚科医がさりげなく言うと、やっと「ああそうか」と納得してくれる。こんなことも
   皮膚科医としての大切な仕事なのであろう。

 7)しかし、産婦人科医と小児科医の先生方のほとんどは毎日お風呂に入れてくださいと
   指導(力説)されている。医師の指導であれば患者さんは納得を超えて賛同する。
   皮膚科医はいつも亜流のなかで嘆くのは当たり前のことなのである。

 8)乾燥性皮膚でもアトピー性皮膚炎でも、
   温まると異常に痒くなる。だから私はそんな患者さんにはシャワー浴を薦める。温まらないし、
   時間も短くできるし、軽く洗うことも可能である。「忙しい平日にはシャワーだけで済ませて、
   休日などはゆったりと微温浴してはいかがですか」と提案している。

 9)そして外用剤療法。前回その体験をおおまかに述べた。
   子供の頃風呂当番だった私は、いかに入浴が貴重なものだったかいまだに鮮明である。
   大学時代、貧しさで“銭湯”にさえ行けなかった経験はいまだに忘れられない。
   五木寛之氏(作家)が2か月に1回の洗髪で十分だと、氏の著書『養生の実技』(角川書店)で
   断言しているが、あながち的外れでないと納得している(実は、五木氏の学生時代は
   もっと少なかったと私の恩師が教えてくださった)。

 スキンケアという観点から考えると、入浴や洗浄剤は重要な問題となってくる。
しかし、皮膚科医間には共通な、エビデンスを持った意見はまだ無いように思われてならない。
入浴設備、さらに洗浄剤の進歩はめざましい。われわれ皮膚科医は、遺伝子レベルに迫る
最新の知識も必要だが、患者サイドに根ざしたごく当たり前の情報に精通することも必要なのであろう。


文献
1) 服部 瑛,皮膚病診療,印刷中
2) 服部 瑛,皮膚病診療,21:360,1999
3) 服部 瑛,皮膚病診療,22:80,2000