オーディオと私

  一昨年夏、私と同年代の某大学皮膚科教授のS先生と隣り合い、会食する機会があった。話

が進むなかで、ご趣味はという問いに、思いがけず「オーディオです」というご返事を頂いた。趣

味としては、全く久し振りに聞く言葉であった。私も同じ趣味を細々ながらずっと引きずっており、

その後S先生とオーディオの話題に花が咲いたことはいうまでもない。

  最近は,音楽が巷に氾濫しており、それに伴う音響機器の性能も飛躍的に進歩したため、良

質な音楽を比較的簡便に、そして安価に聞けるようになってきた。そのためか、その昔耳を研ぎ

澄まして聞くオーディオという趣味を持つ人が少なくなってきているように思われる。艶のあるヴ

ァイオリンなどの弦楽器の音、こくのあるピアノの音などを求めて四苦八苦する趣味としてのオー

ディオという世界はもう廃れてしまうのであろうか...。

  私のオーディオ歴は中学時代に父から買って貰ったビクターの、その当時では始めてのステ

レオ装置から始まる。

  大学時代には、親友から譲り受けたパイオニアのステレオ装置をそれこそ大切に聞いていた

ことを思い出す。卒業後,KEF104abというスピーカーを購入出来た喜びは今でも鮮明に記憶し

ている。そのスピーカーは今もなお父のもとで現役で活躍している。

  それからは、いわゆる「オーディオの泥沼」の世界が続く。JBLというスピーカーに凝ったり、

真空管アンプを製作したりしながら、暗中模索の中で、純粋に私にとって良い(酔い?)音を探し

求めていた時代が懐かしく思い出される。

  オーディオの世界は、人それぞれの感性に委ねられる部分が多く、画一的にその評価や判

断が出来ない。よく「原音再生」という言葉で評価しようとする一部の人達の意見はあるが、音痴

でまた絶対音感も知らない私にはあまり賛同できる用語ではない。要はいかに自分なりに心地

良く音楽を楽しめるかが問題であり、そのために自分に合った装置を含めてオーディオという趣

味があるのではないだろうか。

  現在、私は自宅でスペクトラルのプリ&パワーアンプでマーチン・ローガンというコンデンサー

スピーカーを鳴らしている。あまり知られていないスペクトラルは、予想していたよりもすばらしい

アンプだと思っている。そしてマーチン・ローガンは、低域再生にやや難はあるが、絶妙に艶のあ

る弦の音を奏でてくれている。医院では、TADのスピーカーユニットを中心にして聞いている。最

近アカペラのイオン・トィイターを付加することなどで、ようやく私の好みの音に変貌したと思って

いる。特にピアノの音が秀逸だと自己満足しながらオーディオを楽しんでいる。

  つい先日、さきのS先生とオーディオについて熱っぽく話し合う機会があった。私にとっては、

とても貴重で楽しいひとときでもあった。