アフリカへ行きました】
 
24)サバンナに咲く赤い花
 
ある一日はマコーリさんの提案でロング・ゲームドライブに出かけました。
ここのロッジでは基本的な日課として朝6時と午後3時の一日2回、約2時間のゲームドライブが設定されていて、3度のお食事はロッジでいただくことになります。
しかし、希望するとロング・ゲームドライブと言って、早めの7時に朝食をすませてから、ピクニックランチをもって出かけることもできます。
8時から夕方までサバンナを走り回ってもらえると言うわけです。
昼食のためにロッジへ戻る必要がないので、その分いつもより遠くまで足が伸ばせます。
マコーリさんもある程度時間に制約されないので朝夕のゲームドライブの時に較べるとゆとりを持って運転しているようでした。
 
マサイ・マラを訪れた8月、草原は一面金茶色のタケの長い枯れ草で被われ、根本には緑色の背の低い草が生えていました。
草原には直径1メートル前後の大きな蟻塚がそこかしこにあります。
使用中だと思われる蟻塚は表面の土が黒々としていて、かなり滑らかに見えます。
それに較べると、すでに放棄された蟻塚は放棄後の経過時間によって様相が次第に変わっていくようです。
放棄されてからあまり時間が経っていないと思われる蟻塚は表面の土がモコモコと均一ではなくなり、もう少し古くなったものは表面に草が生え始めています。
さらに時間が経ったものは草の他に小さな木が生えてきて、蟻塚本来の三角錐の形が崩れてしまい、その内にこんもりしたブッシュへと変化していくようです。
すっかりブッシュになってしまった蟻塚は、ちょっとした日陰をつくるので肉食動物たちには昼寝の場所を、草食動物たちには身を潜める場所を提供しています。
それにしてもこの大きな蟻塚にはどんな蟻が住んでいるのでしょうか。
結局サバンナでは自由にサファリカーを降りては行けないことになっているので、蟻塚を覗いてそこの住人を観察することは出来ませんでした。
 
今までの朝夕のゲームドライブの時に通っていた草原とは違って、背丈の長い金茶色の草の少ない区域へさしかかりました。
この辺りは、丈の短い若葉色の草が多くて、所々に両手を広げたくらいの大きさの石があちこちに転がっていました。
足を伸ばしてきたところはマラ川に近いところと思われる辺りで、昨日まで朝夕通っていたオロロロ・ゲートに近い草原とは少し様相が違うところでした。
ブッシュや木などが無くて、見通しの良いところでマコーリさんが車を止めました。
 
  『ここなら車から降りても良いよ』とマコーリさん。
マサイ・マラへ来て始めてサバンナの真ん中でサファリカーからの下車が許されました。
サバンナに自分の足で立つのは、バルーンサファリでの朝食時以来、2度目のことでした。
今まで動物を探していた草丈の長い金茶色の原ではなく、珍しく一面に短い草の生えている平地で、両手にちょうど乗るくらいの石があちこちに転がっているところでした。
辺りには動物が潜んでいそうなブッシュも木も見当たりません。
車から降りても危険の無いところだとマコーリさんが判断を下したのでしょう。
 
マコーリさんが車を止めたのは、とても鮮やかな赤い色の花が咲いている所でした。
ロッジの庭にはいろいろな草木が植えられているので赤い花もありましたが、赤い花はおろかサバンナで花を見たこと自体が初めてでした。
朝夕2回サバンナを訪れても、見えるのは青空・雲、枯れた草・青い草、土そして動物たちの毛の色でした。
草原の中の赤い花はとても強烈な印象を受けました。
 
  『マコーリさん。この赤い花は何という名前ですか?』
  『スカドクサスだよ』
花茎の短いだけでまるで「彼岸花」にそっくりの花でした。
マコーリさんが直ぐに花の名前を教えてくれたところをみると、ここではよく見受ける花なのかも知れませんが、私は始めて聞く名前でした。
折角教えて貰った名前ですが耳慣れていないので忘れてしまいそう。
その日は生憎筆記用具を持ってきていなかったので、急いで夫に「名前を控えておいてね」と頼みました。
ガイドブックには、「何かと便利だからゲームサファリに出かける時、メモ帳とペンは持っていくこと」とのアドバイスが記されていました。
でも、いつも書き留めるより見るのに忙しくて、「持っていくだけ無駄」と、部屋へ置いてきてしまったのでした。
やはり、注意書きは飾りではありません、謙虚に受け止めるべきでした。
 
この花の直ぐ傍には草食動物が残していったと思われる直径2センチ内外の真新しい糞が沢山転がっていました。
今ここに動物はいませんが、草原にはあれだけいろいろな生き物がいるのですから当然土壌の栄養はよいに決まっています。
サバンナで立派な花が咲くのにはそれなりの理由があるのです。
 
帰国後、「スカドクサス」って一体どういう種類の花なのだろうと思い、帰国後ちょっと調べてみました。
 
 学名:Haemanthus multiforus (ちなみに Haemanthus とは血液のことです、なるほど納得。) 
 英語では scadoxus あるいは fireball lily 、納得。
 分類学上は ひがんばな科 スカドクサス属、納得、納得。
 南アフリカ原産だそうです、東アフリカへはどのようにして来たのでしょうか。
 
サバンナで初めて見かけた赤い花。私が行っている間にサバンナで見た赤い花は後にも先にもこのスカドクサスだけでした。
とても珍しいとおもったので、この花のことはぜひお話ししておきたいと思っていました。
単に私が珍しいと思っただけで、他の季節には赤い花が沢山咲いているのかどうかは解りません。
   スカドクサス。花茎は短いのですが、花の直径は20センチ位もある見事なものです。
   彼岸花によく似ていますが、センコウハナビ草とも言うらしいです。
   なるほどセンコウハナビのようにも見えます。
 
  スカドクサスの直ぐ傍には、このように見事な肥料が転がっていました。
  まるで出来たばかりのチョコレートボールをばらまいたかのように、みずみずしいのです。