【アフリカへ行きました】
 
25)ライオンさん、食事の残りは・・・
 
マサイ・マラにはライオンが沢山いるようで、殆ど毎日のように出会うことが出来ました。
見かけるのは大体朝のうちで、夕方のゲームドライブでライオンを見かけたことは一度もありませんでした。
早朝のゲームドライブの時にライオンをよく見かけるのは、夜行性の彼らが夜の間にハンテイングを試みているからなのでしょう。
狩りに成功した日なら、ちょうど食事中か、満ち足りてほっと一息食後のお休みをしている時でしょうし、失敗した日ならふて寝をしているか、空腹にいらいらして動き回っている時だったのではないかと考えています。
 
でも、マサイ・マラのライオンは狩りが上手なのか、それとも餌となる草食動物が多いのかよく分かりませんが、いつも彼らに出会うのは食後とみえて大きくお腹のふくれた満ち足りたライオンたちでした。
何故かほとんどオス1頭だけの場面に遭遇していたのでした。食後の団らんをしているメス、オス、子供から構成さた10頭あまりのライオン・ファミリーに出会ったのは僅かに1回しかありませんでした。
こちらへ来るまで、ライオンはオスよりメスの方が狩りが上手なので、普通はメスが仕留めたものをファミリーで分けて食べるのだと信じ切っていました。
オスが自ら狩りをするのは家族から独立した若いライオンだと言われていますが、それにしても結構威風堂々とした立派なオスをよく見かけたのです
 
そのような次第で、彼らの狩りの一部始終を目撃したわけではありませんが、「オスライオンだって真面目に自分で狩りしているのだ」と自分の知識を書き換えておきました
少なくともライオンの狩りについて、「メスは上手でオスは下手」という定説に少しばかり反論してオスライオンの立場を弁護したい気分になって帰ってきたのです。
いくら若くても威風堂々、立派な体格をしたオスライオンなのですから、メスが仕留めたものを分けて貰ったり、他の動物から横取りしたものではなく、正々堂々と自らの力で手に入れたものを食べているのだと思いたい気持ちがあるからです。
 
このお話の主役のオスライオンも、私たちのガイド、マコーリさんが第一発見者でした。
マコーリさんが発見して、彼を脅かさないように近くまで車を進めた時、ライオンは
    『見てくれよ、オレの今日の獲物だぜ。シマウマだよ、シマウマ。大きくて素晴らしいだろう。たらふく食べたからもうお腹が一杯だよ。
    これ上はもう食べられないんだよ』
とでも言いたそうに、ちょっと自慢顔であたりを見回しているところでした。
 
 
マコーリさんは早速いつものように、無線でサバンナに出てきている他のサファリカーの人々に連絡をとります。
間もなくみんなが駆けつけてくるでしょう。
やはりこのライオンも1頭だけで行動していたと見えて周りに他のライオンはまったく見当たりませんでした。
頬からあごに掛けての毛を血で赤く染め、ライオンらしさを強調するはずのたてがみもぼさぼさのままでいるところです。
すぐ足下にはシマウマの模様がみえていました。今日の獲物はこのシマウマだったのです。
頭と前脚、内蔵が入っていたお腹の部分はすっかり空っぽになっていて、下半身だけが転がって見えていました。
まわりに頭も前脚も見あたらないのですからきっと他所の場所で狩りをして、食べ残した部分をここまで運んできたのに違い有りません。
私たちのサファリカーが近づくと、ちょっと睨みながら立ち上がり威嚇するようなそぶりを見せました。
獲物を横取りされると思ったのでしょうか。
      『苦労して仕留めた獲物だ。おまえ達なんかには分けてやらないよ』
と今にも言いそうな様子です。
 
 
他のサファリカーは余り近くにはいなかったのでしょうか、みんなはなかなか集まってきません。
お陰で私たちはこのライオンを特等席で独占して、一部始終を見守ります。
いつまで経っても私たちが立ち去ろうとしないので心配になったのでしょうか、獲物を隠しておこうと考えたのでしょうか。
大きくて重そうな食べ残しをくわえて、えっちらおっちら、ヨタヨタと歩き始めました。
半分だけとは言っても大きなシマウマです、数歩歩いては「ちょっとお休み」とばかりに止まります。
ブッシュの葉っぱの生い茂ったところに隠すつもりでしょうかか、次第に茂みに近づいていきました。
 
 
結局ブッシュの周りを半分回ったところで、懸命に押し込もうとするのですがなかなか目的が果たせないようです。
どう考えてもその空間はシマウマの隠し場所にしてはとても小さすぎるのです。
    『まいったなあ、大きすぎて隠せやいない。どうしたらいいだろう』
鼻先で茂みをつついてみますが、隠し場所が広がるはずもなく、その内にとうとうシマウマを放りだしてしまいました。
どうしても隠せないと諦めたのか、重いものをくわえているうちに顎が疲れたのか、残り物を安全な場所に確保する事を諦めたのか解りません。
とにかく、満腹状態でお腹がポンポンのライオンにとって、この重労働は過酷だったのではないでしょうか。
 
 
そうこうするうちに仲間のサファリカーも続々集まってきたので、辺りが少し騒がしくなりました。
あちらのサファリカーの若い金髪のお嬢さんはシマウマの半身を見て、手で顔を被って後ろを向いてしまいました。
血のニオイをかぎつけたのでしょうか。近くの木の枝には、ハゲワシやエギプトハゲコウ、トピなどの猛禽類が続々と集まってきました。
これらの鳥たちはいつもこのようにして他の動物が仕留めた獲物が放棄されるのを今や遅しと待ちかまえているのです。
そう言えば、ヌーの川渡りの時にも相当数の鳥たちが集まってきました。
いずれこのライオンがシマウマを残して立ち去るに違いないと決めてかかり、自分たちの食事の時間を待っているのでしょう。
鳥たちの方が役者が一枚上のようです。
それにしても、「獲物の横取り名人」と悪名高いブチハイエナが近くに来ていないのが不思議でした。
 
   左の木の枝には止まって虎視眈々と見ているのはアフリカハゲワシたちです。   
 
ライオンは、まだシマウマの残りものの傍に座り込んだままです。
彼はもうそろそろお昼寝の時間でしょう。残り物は諦めて、もう少し日陰へ入ればいいものを・・・日向で頑張っています。
彼にとっては苦労をして仕留めた獲物です、誰かに横取りされたくないと言う思いから、容易に傍を離れられないのに違い有りません。
ヒトは誰しもある程度の所有欲がありますが、満腹しても残りものを放りだして立ち去ろうともしないライオンを見ていて、「動物も所有欲があるのだわ」と自分流の解釈をしてしまいました。
 
サファリカーが続々集まってきたので私たちは他の車に特等席を譲り、その場を後にしました。
このライオンは自分の残した肉を忘れずに後で食べたでしょうか、それとも隠したことなどすっかり忘れてどこかへ行ってしまったのでしょうか。
私は後者の方だと思っています。
 
帰り道、あのライオンから離れた別のところで、2,30羽の鳥たちがブッシュの近くで小競り合いをしている場面を目撃しました。
アフリカハゲコウ、エジプトハゲワシなどの猛禽類と思われる鳥たちの集団です。
あのライオンが食べ残したシマウマも、多分何時間も経たないうちにこれと同じような光景を繰り広げているのだと思います。
ライオンが積極的に他の動物たちに獲物を分け与える訳ではないのですが、一旦自分が満ち足りたら最終的には自分より弱者の口に入り、小さな破片はもっと小さな雑食動物や昆虫の餌になり、さらに時間を掛けて土に戻るのです。
自然界の仕組みのなんと見事なことでしょう。
    屍肉となった動物の種類は解りません。
    中央でひときわ大きく黒い羽をした鳥が「アフリカハゲコウ」です。この鳥は頭と喉には羽がなく
    皮膚が剥き出しです(屍肉を食べる時、血で羽が汚れないためだと言われています)。
    大きいものは体長150センチくらいあり、アフリカ全土に生息しています。
    屍肉の他にカエル、ヘビ、ネズミなどの小動物や昆虫もを食べます。
    白っぽい鳥は「エジプトハゲワシ」、右手のやや大きい鳥は「マダラハゲワシ」だと思います。