【アフリカへ行きました】  
 
34)私のシマウマ
 
サバンナの中でどの動物が一番目を惹くかと言えば、シマウマに勝るものはいないと思います。
大胆に染め分けた、白黒のだんだら模様は素人目にも見つけやすく、似た動物が他にいないこともあって、間違えることがありません。
それに較べると、角の生えたガゼルなどウシ科の動物の仲間は、私にはそれぞれを見分けることが大変苦労でした。
似たような大きさの動物は、角の形で見分ける(長さ、太さ、ねじれのある無しなど)、お尻の白い毛の生え方で見分ける(Tバック型、まん丸型など)のだと言うことを少しは知っていましたが実際には難しく、よく間違えていました。
いつも見やすい格好で私の方にお尻や角を向けてくれるとは限りません。
斜めだったり首を曲げていたりで、眼を凝らしている間に遠くへ走り去ってしまうこともしばしばです。
  『ねえ、今見えたの何だったの?』
と家族に聞いてもその反応はいささか鈍く、即座に答えは戻ってきません。
少し間が開くと、それと察してかマコーリさんがポツリと
  『エランド』
などと教えてくれますが、車が走っているときは再確認しようとしても間に合いません。
 
それに較べると、シマウマはなんて見分けやすいのでしょう。
これなら私にだって「あっ、シマウマがいたわ!」 と自信をもって宣言できます(本当は叫びたいところですが、サバンナでは動物を脅かすので大声を出すことは禁物です)。
派手なデザインの動物なら他にもいます。
キリンなら崩れた水玉模様と長い首で見分けは簡単ですし、ゾウは色合いは地味ですが他の動物を圧倒する大きさでそれぞれ周囲から浮き上がって見えます。オマケに彼らは日本の動物園ではスター格の動物ですから見慣れています、間違えるはずがありません
 
でも、ゾウやキリンに較べるとシマウマはずっと小さな草食動物です。サバンナの中で、あんなに目立つ姿をしていても大丈夫なのでしょうか。
一般に小型の草食獣は、どちらかというとヒトの眼からは見分けにくい色のものが多いように思いました。
そんな中で、シマウマの身体はとりわけヒトの眼を惹きます。
あんなに派手なシマウマが、頭数が多いとはいえ、絶滅種にもならずにこの大自然の中で生き延びてこられたのは何故でしょう。
臆病ですばしっこいことは事実です。
前もって得た僅かの知識によると、あのだんだら模様があるからこそカモフラージュ出来るというのです。
一見派手に見える縞模様でも、ヒトとは色覚の違う動物には、ボウボウと生えている草に紛れて見分けるのが難しいのだそうです。
その話を聞くとあの派手なだんだら模様も納得できます。
 
         レッドオーツグラスの草深い中にいるシマウマの群れ。
         あの縞模様が立派なカモフラージュだなんてヒトには容易に信じられません。
 
ところで、あのシマウマの模様はなんて素敵なのでしょう。
あのシンプルなデザインはとてもモダンだと思います。
顔は正面から見ると、まるで歌舞伎の隈取りです。今にも大向こうから 『成駒屋ーっ』とか 『高麗屋ーっ』と声がかかりそうです。
白黒で放射状に塗り分けられたプリプリのお尻は可愛いことこの上なしです。
アフリカで見た動物の中で一番の「お気に入り」になりました。
いくら可愛いくてもシマウマを日本へ連れて帰るわけにはいきません。ちょっと寂しいです。
 
ある夕方、ロッジのギフトショップへ立ち寄ったとき、シマウマ模様の可愛い小さな指輪があるのに気がつきました。
いろいろ試してみたら、その中の一つが私の右手の薬指にぴったりおさまったのです。
こんな素晴らしいことはありません、勿論直ぐに買って指にはめておきました。
その日から、シマウマの分身が私と行動を共にすることになったのです。
とても気に入りました。時々、クルクルっと回してみて、シマウマがサバンナを走る姿を想像していました。
勿論、日本へ連れて帰りました。
 
日本へ帰って2日目、いつものように指輪を回そうとしたら・・・・・無いのです。
アフリカ以来右手の薬指にはめていた、あのシマウマの指輪が無くなっていました。
どうして無くしたのか、どこで無くしたのか心当たりがありません、とてもがっかりしました。
 
きっとあのシマウマは、広々としたサバンナと沢山の仲間達が恋しくて、こっそりアフリカへ帰ってしまったのだと思っています。
「さよなら」くらい言って欲しかったけど、それはそれでもっと悲しくなったかも知れません。
いつか、もう一度アフリカへ行って、私のシマウマにぜひ会いたいと思っています。
  
    このシマウマはカメラ目線で立っています。
    まるで、何か言いたそうに、私をじっと見詰めているようです。