【アフリカへ行きました】
 
41)ナイロビで寄り道  2)「ウガリ」と「ウジ」
 
国内線ウイルソン空港を後にして、ナイロビの街を垣間見ながら車はどんどん進みました。
道路脇の看板を見て少し感傷的になり気分が沈みましたが、次はいよいよお食事です。
ケニアの郷土料理を用意してださったというお話なのでワクワクです。
今まで滞在していたロッジのお食事は3食ともフランス料理でした。
帰国するまでに何とかケニアならではのお食事を頂きたいと思っていた矢先だったので嬉しいでした。
 
郊外の比較的静かな高級住宅地と思われる区域へ入り、その一角のひっそりとした木陰に佇むレストランが目的地でした。
庭からいきなりテラスへ案内されました。
テラスは広々としていてダイニングルームの一部になっていました。
6−8人用のテーブルセットが6か7ゆったりと並んでいて、その中の一つに案内されました。
奥の方は絨毯の敷かれた普通のダイニングルームのようですが、気温20度前後の爽やかな季節のためか、テラスではすでに2組の人達が食事をされていて、室内にはお客さんの姿はありませんでした。
 
プリント柄のロングのワンピースを着たウエイトレスの方々が待っていてくださいました。
柄は人によって違いましたが、広い襟ぐり、大きな提灯袖でウエストを絞った洋服でした。
後で調べたところでは、これがケニア共和国の民族衣装のようでした。
そう言えば、ケニアのマータイさんもノーベル賞の受賞式で、このような服を着ていらっしゃいました。
 
一同が席に着くと、ウエイトレスさんが洗面器のようなボールと水差しを持って脇へ現れました。
(どうするのかしら?)と言うようにガイドさんの方へ目を向けると
   『テーブルにナイフとフォークを用意してありますが、こちらでの食事は直に手で食べますから、まず手を洗うのです』
と言いながら、ボールの上へ手を差し出すと、ウエイトレスさんが水差しの水を掛けてくれるのでした。
こんなに丁重なサービスをするのはきっと上流階級か高級レストランくらいなのではないかと思いながら、サービスを受けました。
 
お料理はブッフェ風にテラスの一角にずらっと並べられていて、そこへ各自が取りに行くのです。
大きな楕円形のスイカの上半分を斜めに切り取ってくり抜いたような素焼きの容器が幾つも並んでいます。
一番手前にある大きめの容器には 《ウガリ》 が入っていました。
 
そうです、この《ウガリ》がケニアの代表的な食物なのです。主食で、日本のご飯に相当するものです。
トウモロコシの粉、あるいはトウモロコシとキャッサバの粉をお湯でねって蒸し上げたものです。
容器には、握り拳くらいの大きさの塊に分けた暖かいウガリがごろんごろんと入っています。
   『先ずウガリを好きなだけお皿に取って、それから次に並んでいるオカズを好きなだけウガリの傍へ取り分けてから席へ戻りましょう』
ガイドさんが先頭に立ってお手本を示してくれます。
   『オカズは野菜のシチュウとか魚の煮たもの、肉と野菜の煮物、豆のシチュウなどがあります』
   『青い菜っ葉は、ケニアで一番好んで食べられているスクマと言う野菜で、塩味の炒め物にしてあります』  
 
何でも試してみたい私はウガリの横へ、オカズ全部を少しずつのせてから席へ戻りました。
   『こうやって食べるのですよ。ウガリは口に入るくらいの大きさにちぎったら、指でもむようにこねながら薄く延ばします』
   『そして、延ばしたウガリでオカズを挟むようにして口へ入れてください、こうです』
パクリと実践して見せてくれました。
 
私もウガリをお皿の上でコネコネします。
「右手だけで」とは言われませんでしたが、ガイドさんは右手しか使っていなかったので私も真似をして左手は使いませんでした。
なれないと右手だけで捏ねるのはちょっと難しいですが、何とか捏ねていると粘りが出てきてオカズを挟めるくらいに出来ました。
ウガリは、ちょっとザラッとしたお団子のような感じで、捏ねないとボソボソしてオカズと一緒に食べにくいかも知れません。
ご飯と同じように塩味も何もまったく付けてありません。
トウモロコシが原料ですから当然匂いはトウモロコシです、いろいろなオカズと組み合わせれば飽きずに毎日食べられると思いました。
 
豆のシチュウは何種類かの豆を塩味で煮込んだものでとろりとした食感がお団子のようなウガリに良くマッチして一番気に入りました。
肉や魚などは何も加えず、豆だけのものでした(タマネギが入っていたかどうか記憶にありません)。
あっさりしたスクマ(青菜)の塩炒め、スパイスの利いたナイルパウチらしいお魚の煮物も美味しくて、2巡目にはこの三品をおかわりしていただきました。
その他、テーブルにはラムの焼き肉風(塩胡椒味)も供されていました。
もともとラムが好きなのですが、ウガリですっかり満腹した私には、とてもそこまで手が出ませんでした。
 
食後のデザートはフルーツ各種で、これも自分で好きなだけ取ってきていただきます、トロピカルフルーツが主体でした。
コーヒーの他にもう一品、不思議なデザートが出ました。
大きな木の実を半分に割って乾かし、お茶碗代わりにしたものをウエイトレスさんが運んできました。
丁度小さめのおどんぶりくらいの大きさのものです。
両手で受け取ると何かどろっとした液体のようなものが入っていました。
   『?』
また私は、ガイドさんに目を向けます。
   『《ウジ》 と言うもです。ケニアでは離乳食にしたり、朝の食事代わりに飲んで学校や会社に出かけます』
   『元気が出る食べ物として知られています』
   『身体の具合が悪いとき、お母さんがよく作ってくれるものなのです』
 
ヨーロッパで言う「オートミール」とか「ポーリッジ」などと似たようなもので、とろみのある液体です。
淡い灰茶色で日本の「おもゆ」のような感じのものでした。
暖かくて、ほんのり甘くて、香ばしくて・・・何か懐かしいようなお味です。
考えてみたら、子供の頃食べたことのある「はったい粉」(「麦焦がし」とか「香煎」とも呼ばれていた)を思い出しました。
器は底が丸いので安定感が無く、飲み干すまでテーブルに戻せません。
大きいので両手で抱くように器を持つと、乾いた木の実の滑らかさとほのかな温もりが伝わってきました。
一口飲む毎に、暖かさがじわーっとお腹全体に広がっていくような気がしました。
 
確かに、身体の調子が悪いときにお母さん手作り《ウジ》を頂けば、滋養が全身に広がって母親の優しさと暖かさの両方を味わうことが出来る素敵な食品なのだと思いました。
 
註1 《ウジ》    
    トウモロコシだけ、トウモロコシとアワとヒエ、あるいはトウモロコシと栗と小麦を合わせて、粉にして水と一緒に煮た粥状のもの。
    素材は地域によって違うらしい。ケニアの郷土食の一つ。
註2 《はったい粉》   
    大麦を煎って粉にしたもの。
    どうも関西は「はったい粉」と呼び(私は関西系)、他の地域では「香煎」とか「麦焦がし」と呼んでいるようです。
    少々の砂糖と塩を加え、お茶でこねて(固さはお好みだったようです)、あるいはお砂糖を混ぜて粉のままスプーンですくっていただきました。
    私は粉のままの方が好きだったと記憶しています。食べている最中にくしゃみをすると粉がとんで大変です。
    最近は、通販などで入手できるそうです。
 
  
さあ、いよいよ昼のお食事です。