【アフリカへ行きました】
 
46)旅の総決算 その2
 
2)ほこり避け
 
マサイ・マラでゲーム・ドライブにでるようになって3日目の午後のことです。
ヌーが川渡りをし始めるらしく川沿いに集結しているという情報を仲間からの無線で知ったガイドさんは車を飛ばして駆けつけました。
 
情報はすぐにサバンナ中を駆けめぐり、あちこちのロッジの車が集まってきます。
数台の車がすでに到着していて、皆熱心に向こう岸に集まりつつあるヌーの集団を見詰めています。
まだまだ近づいてくる車もあります。
 
息を凝らして見詰めている間にもヌーの数はどんどんふくれあがり、ぞろぞろと川に近づいたり戻ったりを繰り返します。
この沢山のヌーたちは、何を合図に、いつ頃、川のどの辺りを横切るのでしょうか。
「川渡り」にはリーダーがいるのでしょうか。
命を賭けての川渡りです、ヌーも慎重になるのでしょう、なかなか始まりません。
 
ヌーからちょっと目を逸らして、失礼ながらサファリカーの「乗客ウオッチング」をしてみました。
各ロッジのサファリカーの乗客たちは、人種、、性別、年齢はさまざまです。
皆、野生動物に配慮して小声で話をしているので、言葉から国籍を推測することは出来ません。
ヨーロッパの方々とおぼしい「おばちゃまグループ」もいます、日本と同じでちょっとかしましいようです。
どういう訳か、小さい子供はまったく見当たりません。大人ばかりです。
日本国内の動物園では圧倒的に子供が多いのに、マサイ・マラは遠すぎるからでしょうか。
 
観光客の中で、中年の東洋人と思われるご夫妻らしいカップルに目を惹かれました。
ご夫人はスカーフで頭を包み、眼鏡と大きなマスクをかけ、ご主人は帽子、サングラスとマスクです。
その姿は、まさに《防塵用重装備》のお手本のように見えました。
白人の若い女の方達の中には、結構ノースリーブで顔と腕が真っ赤に日焼けしている方もいらっしゃいましたが、中年以降の女の方はおおむね長袖の服で帽子を被っている方が多いようでした。
見渡す限り、ほぼ全員がサングラスを掛けていらっしゃったのですが、マスクはこのご夫婦だけだったので特に目に留まりました。
 
そうそう、そう言えば私も日本からマスクを持参していたのです。
ケニアのサファリに関するガイドブックはあまり出版されていませんが、私は2冊見つけて買ってきました。
旅行会社のケニア・ツアーの紹介も数少なく、まだまだアフリカはマイナーな旅行先のようでした。
 
数少ない情報の中で重要と思われた項目は、
  1)例え涼しくても日中の日射しは強いから、紫外線対策を怠らないように。
  2)乾季のサバンナは砂埃がひどいから、体中埃まみれになる、スカーフ(防寒用にもなる)とマスクは必需品。
  3)マラリアを媒介する蚊や昆虫が多いから、蚊取り線香、スプレーその他の防虫対策もお忘れ無く。
と言うものでした。
この注意事項はとても大切だと思い、忘れないようにと肝に銘じました。
 
私がケニアへ行ったのは、家族全員がある程度まとまった休みが取りやすい夏休み、8月後半でした。
幸いなことに、その時期はマサイ・マラでは《乾季》に相当する時期だと書いてありました。
  「1,2月は小乾季、6,7月から9月初めくらいまでが大乾季とされ、この間は紫外線対策と埃対策を充分にすること」
とのことでした
飛行機の中も目的地も、空気が乾燥していると言うことです、充分の心構えが必要と理解しました。
そして、従順にアドバイスに従って、使い捨ての花粉症用マスクとスカーフ、帽子、日焼け止めクリーム、蚊取り線香を荷物の中にしまい込みました。
 
マスクをしたご夫婦を見て、そのアドバイスを思い出したのです。
マサイ・マラへ来て3日目のこの日まで、シャワー(夕立)には出会いましたが砂埃とは全くの無縁のサバンナでした。
従って、マスクのことなどすっかり忘れていたのです。
スカーフは保温という意味で持ち歩きましたが、マスクは結局帰る日まで寝室のタンスの中へしまい込んだままだったのです。
 
もしかすると、あの「ミスター・マスク」と「ミセス・マスク」は日本の方で、私と同じガイドブックから得たアドバイスを忠実に守っていらっしゃったのかも知れません。
マサイ・マラのサバンナの中では、きっと砂埃が舞い上がるものだと信じ、マスクをかけ、「今に埃が・・・、いまに埃が・・・」と、待ちかまえていらっしゃったように見えました。
さらに想像をたくましくすると、この日が最初のゲーム・ドライブの日だったのかも知れません。
何度かゲーム・ドライブに出ていらっしゃったなら、すでに埃の少ないことに気付いていらっしゃったはずです。
 
ガイドブックに「埃に備えて、マスクを用意しなさい」、「スカーフやバンダナは埃よけにも防寒にもなるから、荷物に入れなさい」と書いてあれば、なるほどそうだと思い込んでしまいます。
私も、お勧めに従って持参したのです。
ガイドブックの著者はサバンナで砂埃を経験されたからこそアドバイスに書き加えられたのだと思います。
でも私は、到着した日にシャワー(夕立)を経験し、地面に水たまりが出来たのを見たので、最初からマスクは持って出かけなかったのです。
結局私は、最後の日まで砂埃に悩まされることはありませんでした。
マスクはアフリカへ連れて行っただけで無用の長物でしたが、「いざというときは・・・」という安心感を与えてくれました。
 
それにしても、アフリカの雨季と乾季、それぞれの空模様や状況は実際にその時にならないと分からないものだと思います。
雨季と言えば日本の梅雨のように連日じとじとと雨が降り、乾季は文字通り一粒の雨も降らず、大地にあるすべてがカラカラに乾く季節なのだと信じていました。
でも、8月に行った私は、大乾季であるにもかかわらず毎日のようにシャワー(夕立)と虹を経験し、砂埃とは無縁でした。
現地の方のお話では、乾季でも夕立は降るし、雨季でもザーッと降ってもまた止んで太陽の輝く時間帯もあると言うことでした。
あの「ミスター&ミセス・マスク」、明朝のゲーム・ドライブの時、マスクはどうなさったでしょうか。
 
                                      註:結局、この日、ヌーは川渡りを中止し、引き上げていきました。
                                                 理由ですか? ヌーに尋ねなかったので分かりません。