【アフリカへ行きました】
 
47)旅の総決算 その3
 
3)足が萎えた?
 
いつのことだったのか記憶が曖昧なのですが、ある日、ゲームドライブが終わり、ロッジへ戻ったときのことです。
いつものようにサファリカーの高いステップから、{どっこいしょ}と密かに呟きながら降りました。
そして、ガイドのマコーリさんに『有り難う』と言いながら握手を交わし、自分のコテージへ引き上げようとしたときのことです。
自分では普通に歩いているつもりでしたのに、「あら?」
 
何だか脚の調子がおかしいのです。
車の中でこっそりアルコールを飲んだわけでもないのに、
  「よろよろ、よろ」、「ふらふら」、「どたどた」
まるで千鳥足のような具合です。
表現の仕方は色々ありますが、とにかく脚が自分の思い通りにならないような感じなのです。
「地に着かない」、「雲の上を歩く」ようなフワフワ感がしたのです。
「脚が萎える」とはこんな感覚になるのでしょうか。意識しないでいると崩れ落ちそうな気がしました。
それ以降、程度に差はありますが、毎回車をおりて歩いているときは同じことの繰り返しでした。
家族が何も言わないところを見ると、自分だけの感覚で、どうやら皆は気がついていないようでした。
 
こんなはずじゃあないんです、私比較的シャカシャカ歩く方なのです。
「これは一体なに? 病気にでもなったのかしら」とちょっと心配でした。
なんとか理由を見つけたいと思って私なりに考えました。考える時間はいくらでもあります。
 
日本での暮らしと比較するために、マサイ・マラでの一日を振り返ってみました。
 「毎日早起き、規則正しい暮らし」が健康に悪いはずはありません。
 食事の内容は豊富で、毎食たっぷりいただいていますが、食事が原因とは思えません。
 歯磨き、飲み水はミネラルウオーターを使用しましたから、生水に含まれる不純物は無関係でしょう。
 豪華な3食昼寝付き、家事は何もしなくて良い、と言う「至福の喜び」のために脚が萎えるとは思えません。
 「安楽すぎて、罰が当たった」 まさか。
 
散々考えて私なりにたどり着いた結論は
  《毎日、6時間近く車の中で過ごし、歩く距離がほんの少ししかなかったために起こした「筋力低下」による》
 
こちらでは食事のために自分たちのコテッジから、ダイニングルームや売店、フロントのある管理棟までの距離約100メートルを《3往復+アルファ》しか歩いていなかったのです。
広くもないコテッジの中をうろつく距離だってたかが知れています。
それに、私は老人ですから、筋力低下は若い人よりずっと進行が早いに違いありません。
車で揺られたお陰で、体重増加は免れたと考えていたのですが、思わぬところで「付け」がまわってきたようです。
 
ここでちょっとマサイ・マラの道路事情を説明しておきましょう。
そうでした、マサイ・マラのキチュワ・テンボ空港(?)からロッジへの道、ロッジからマサイ・マラ国立保護区への道など、ここでは舗装された道路はまったくありません。
勿論、国立保護区の中は言うに及びません。
宿泊しているロッジ周辺の道は舗装こそされていませんが、広くてしっかり固められた赤茶色い土の道で、轍の跡もなくきれいに平らにならされていました。
でも、ロッジを少し離れると、所々に轍の跡がついたでこぼこ道で、小さな川を横切る橋はちょっと心細いようなものでした。
勿論道幅も狭くて、車一台がやっと通れるかどうかのところもありました。
 
国立保護区の中へ入ると、中央を走るメインストリートは何とか対向車とすれ違えるくらいの幅の道でした。
でも、両側はまるで側溝のように深くえぐられていて(雨季に雨水が流れて出来たものでしょうか)、ちょっとシャワー(夕立)の雨量が多いとぬかるんで車は直ぐにスタックを起こすらしいです。
スタックを起こした車の情報が流れると、仲間が駆けつけロープを掛けて引きずりあげるのでした。
雨季には日常茶飯事らしいです。でも、私が滞在期間中は乾季だったので車を引っ張る様を目撃したのは1回だけでした。
脇道はもっと狭いのですが、まあ道はあってもなくても変わりないくらい、どの車もサバンナの草の中へと入り込んでいくのでした。
 
保護区内の道では、よく動物たちが横切るので、彼らの足跡が刻まれていることがありました。
足跡を見て、どんな動物の足跡か考えるのも面白いだろうなと思いながら眺めたものです。
でも、ガイドさんはそんなことにお構いなし、アフリカン・ビッグ・ファイブのような代表的な動物を見せようと、どんどん車を走らせていきます。
お客は動物を見にきているのですし、「出来る限り動物をみせるように」というロッジの経営方針があるからかも知れません。
「寄り道はダメですよ、ハイハイ、いろんな動物を見せてあげるから、大人しくしているのですよ」という感じで車を進めていきます。
じっくり見たいと思っているのに、どんどん足跡を踏みつぶして進んでいきます。ちょっと残念でした。
 
このように毎日大して歩きもせず、5,6時間は車に乗ったまま過ごした結果、脚も萎えてしまったのかもしれません。
この私の考えは正しいのでしょうか?
この説の欠点は、それじゃあ「ドライバーさん」や「長距離運転手さん」はどうかという問題が残ります。
 
帰りのジョモ・ケニアッタ空港では、まだ足下が心許ない気がして、いつまで続くのか少し心配でした。
でも、帰国してから、関西空港や羽田空港での移動(結構距離がありました)、浜松町、東京駅でも乗り換えの度にテクテク・ゴロゴロと荷物を転がして歩きました。
関西空港に着陸してから前橋の自宅までの間、私が歩いた距離・歩数は、恐らくマサイ・マラで過ごした1週間のそれに匹敵するか、上回るくらいだったのではないかと思います。
せっせと歩いたお陰で、帰国の翌日には「雲の上」から「下界」に降りることが出来ました。