【アフリカへ行きました】
 
11)「ヒト」は檻から出てはいけません
 
マサイ・マラを訪れる人の一番の目的は「サバンナで生きる野生の動物を身近に観察し、彼らの営みを肌で感じる」ことだと思います。
私もそれを第一の目的にして来たのでした。
それにもう一つ「人工的なものの一つもない、大自然の中に身を置いて吹き渡る風を感じてみたい」という気持ちもありました。
 
(8.ロッジへ到着)で、ロッジの入り口に到着する前に大きな門があって、門番さんがいることをお話ししました。
ロッジの敷地全体は、この門の両脇から延びるフェンスで取り囲まれているそうですが、こんもり茂った植え込みで上手に隠されているのでフェンスはそれと気が付かないままに過ごしてしまいました。
ここには管理棟の他に客室がありますし、他にプール、食事の時に使ういろいろな種類の新鮮な野菜が菜園で自家栽培されています。これらすべての施設が全部フェンスで囲まれているのですからそうとう広い面積だと思います。
フェンスには電流が流れていると言うことですが確かめて見ませんでした。
 
門を構え、フェンスを設けることによって動物がロッジ内に入ることを防いでいのですが、一方では宿泊客も好き勝手に門の外へ出てはいけないと言う警告でもあります。
ここサバンナでは勝手な行動は許されません、何故ならここは「ヒトが自分たちのために作った社会」とはまったく違う場所だからなのです。
私たちが正式に門から出られるのは、朝・夕2回サファリ・カーでゲームドライブに行く時と、キチュワ・テンボ空港?への送り迎えの時だけです。
仮にロッジの外へ出たとしても、近くにあるものといえば、数キロ先にマサイの人達の集落があるだけで、他には何も無いのです。
ちょっと散歩、と言うのであれば敷地内はかなり広いし、きれいに整えられ珍しいお花などもあちこちに植えられています。
それにいつも早起きして、朝夕2回ゲームドライブに出かけていますと私などは結構疲れてしまい、葉書を書いたりお昼寝をしたりしているとあっという間に夜になってしまいました。退屈している暇もなく、わざわざ外へ足を伸ばしたいとは一度も思いませんでした。
夜は11時に電気(自家発電)もすべて消えてしまい、暗闇の中、星のまたたきと動物たちの鳴き声と風のざわざわいう音だけになります。
都会派で夜のネオンが好きな方や、人のざわめきが恋しくなる方には向かないところだと思いました。
 

さらに、ヒトは一旦ゲームドライブに出かけると、サバンナでは勝手にサファリ・カーから降りることすら許されていないのです。
もしも途中で、車から降りたいのであればそれにはガイドさんの許可が必要です、ガイドさんの状況判断にすべてが委ねられていて、彼が「ここなら降りても良い」と言わないかぎり車から出られません。
私が保護区内の草の上に自分の足で立ったのは、”ヒッポプール”(マラ川のカバのたまり場を見下ろすビューポイント。ここはサバンナで唯一下車が許可されているところだそうです)、ガイドのマコーリさんが枯れ草の間に赤い花(スカドクサス)を見つけた時、バルーン・サファリ後の野外朝食会の時、の3回だけでした。
これらの予防措置は「ヒトを野生動物から守るため」であることは言うまでもありませんが、逆に「大自然とそこで暮らす野生動物をヒトから守るため」でもあるのです。 不自由と言えば不自由かも知れませんがとてもきわめて基本的な問題だと思います。
外国から来る「ヒト」は、もともとこの地帯には無いはずの細菌やウイルス、カビ、それから本来ここにはないはずの化学物質などを持ち込んで落としていくかも知れません。靴の裏の泥に紛れ込んだものをまき散らしてサバンナを汚染してしまうかも知れません。
肉眼で見えないほど小さなものは本当に厄介ですが、はっきり目に見えるものですら落としていく人がいるようです。
私はゲームドライブ中草のあいだに 「使い捨てカイロの外袋(日本製)」、「チョコレートの包装紙(アメリカ製)」、「キャンデイの袋」を見つけました。これらはサバンナにあるべきものではないし、落として行くなんてもってのほかです。
 
国立保護区にはゲートはあっても境界線は勿論のこと、杭一本ありません。
出入りを制限されるのは「ヒト」だけで、ゲートの扉は単にサファリ・カーの出入りをチェックする目的があるからでしょう。
動物たちは地図を調べながら移動するわけではないので当然往来自由です。
かれらは何のこだわりもなくタンザニアのセレンゲッテイとケニアのマサイ・マラの間を行ったり来たりしています。あるいはそれ以上の行動範囲を持って移動しているかも知れません。
ここに「マサイ・マラ国立保護区」という境界線を引いたのは、人間があまりに彼らの世界に立ち入りすぎて、自然の生活を脅かしてしまったことに対する歯止めになるようにと考えたからでしょうか。
ここサバンナで『大自然の中に身を置く』ためには一定のルールが必要になったことについて「ヒト」は反省が必要です。可愛い動物の赤ちゃんに触ってみたいと言う気持ちに駆られることもあるかも知れませんがぜったいおこなってはいけないことなのです。
今となってはどうしても両者の利益のために一線を引く必要があるのです。
自分の身を守るという以外に、動物の世界を脅かす存在(天敵)になってはいけないのです。
サバンナの主役はあくまで野生動物です、「ヒト」は窮屈でもサファリ・カーやロッジと言う「檻」の中にとどまっていなくてはいけないのです。
 
撮ってきた写真を改めて眺めてみると、多くの動物たちがキャメラを意識して私を見詰めているような顔つきをしています。
まるでレンズを射抜くような目で見据えられているようです。
 
サバンナでは 『「ヒト」は「檻」の中に留まって、ライオンをはじめとするいろいろな動物達に見詰められること』 に慣れなければなりません。
 
 
 
     ライオンもウオーターバックもひたすら私たちの方を見ています。このおかしな生き物は一体何をしているのだろうと
     考えているのでしょうか。彼らにジッと見詰められると、おとなしくしていないと叱られそうな気がしてきます。
 
 
        ウオーターバックは私たちを訝しげに見詰めます。     キリンはちょっと首を傾げ、考え深げにヒトを眺めます。
   うさんくさく見えるのでしょうか。                これはマサイ・キリンという種類です。
                                   余談ですが、坐っているキリンはとても珍しいそうです。