【アフリカへ行きました】
 
 12)今日のお食事はインパラです
 
ゲームドライブの時、ガイドやドライバーの方たちは絶えず無線で互いに連絡を取り合っています。
誰かが何かを見つけると、その知らせは次々に届いていくのです。
言葉はスワヒリ語なので何を話しているのかさっぱり解りませんが、情報交換をして客によりよい観察が出来るようにしているらしいのです。
 
広い国立保護区の草原の中、道らしい道はゲートを中心に泥道のメインストリートがあり、たまにそれに交差する細い道がたまにあるだけです。あとは広い草原の中です、枯れ草をかき分け、蟻塚を避けるようにして、自由自在に走り回っているドライバーさんで、まさに「道無き道を分け入る」という言葉そのものです。どこまでも続く草原の中、よく迷子にならないものと感心していました。
きっとドライバーさんの頭の中に詳しい地図がしまい込んであるのか、超小型のカーナビがどこかに埋め込んであるのでしょうか。
とにかく、自由自在にサバンナの中を運転していくドライバーさんに脱帽です。
 
「○○を見つけた!」と言う無線が入ると、そこへサファリカーが四方八方から集まって来ることになっているようです。
そして、第一発見「車」は次の車が来るまで目印のためにその場を離れずに待っているのです。
見つかった動物がサイやチーターなどの希少動物だったりするとどこにこんなに沢山のサファリカーが散らばっていたのかと思うほど、ぞくぞくと集まってくるのです。サイの時やヌーの川渡りの時などは10台以上の車がみるみるうちに集合しました。
 
初めてのゲームドライブの朝、オロロロ・ゲートを通り抜けて間もなく、象の家族を横目に見ながら進んでいく時、ガイド・マコーリさんが無線に聞き耳を立てています。
どうも食事が終わったばかりのライオンがいるらしいのです。
「えーっ。初日からライオンですって。やったー!」
 
もっとも危険な最強の捕食動物、最大の草食動物のうちの5種を『アフリカン・ビッグ・ファイブ(ライオン、サイ、ゾウ、ヒョウ、バファロー)』と呼び、サファリする人達が是非とも見たいと願う動物の1種がライオンです。
初日から見られるなんてとても恵まれているしなんて幸先いいことかしらと嬉しくなりました。
 
マコーリさんは急いで車を走らせていきます。細い道から10メートルほど草原に入り込んだところにサファリカーが一台止まっているのが見えました。どうやらあそこらしいです。
ライオンの毛も金茶色で枯れ草と殆ど同じ色です、私は傍へ近づくまでどの辺りにライオンがいるのか解らなかったほどです。
草枯れのこの時期、金茶色の毛並みをしたライオンには好都合、草食動物にとっては多難な時期に当たるわけです。
お食事も終わって今はもう満腹したのでしょうか、ぽっこり膨らんだお腹をまる出しにしてブッシュの影に寝そべっている雄ライオンでした。
サファリカーが取り巻こうが、人が身を乗り出してキャメラを構えようがまったくお構いなし。
とても満ち足りて、柔和とも見える幸せそうな様子です。お腹がすいている時ならきっと厳しい顔をしているのでしょう。
私に目を向けても、睨むでもなく、威嚇するでもなくのんびりと横たわっています
 
 
    見て下さい、この丸いお腹。すっかり満ちたりてこれから日陰でお昼寝でしょう。
 
 
このライオンが満腹したこの日、一頭のインパラがその命を失って犠牲になっています。
でも、ライオンなどの捕食動物は、ただ無闇、手当たり次第に動物を襲うのではなく、狩りは空腹を覚え必要に迫られた時だけなのです。
犠牲になった動物は可哀相ですが、ライオンが食べた残り物はハイエナやハゲワシなどがおこぼれをつつき、もっと小さなかけらは昆虫が処理し、最後に残った部分は土に戻ってサバンナの草を育てるのに役立ちます。
その草はインパラやゾウ、ガゼルの仲間たちの草食獣が食べるでることになるのです。
私たち人間もやたらに生き物たちを乱獲することなく、自然界にあるさまざまな資源を大切にしなければいけないと思いました。
 
次第に他の車が集まってきたので私たちはその場所を譲って、ライオンと分かれました。
マコーリさんは、ライオンから20メートルほど離れたところにふたたび車を止めました。
「ほら、あれが今ライオンが食べたばかりのインパラの脚の骨に違いないよ」と指さしました。
まあ、蹄の付いたままの脚の骨です、肉の部分はとてもきれいに食べてあり、上の方の折れたところから生々しい赤い骨髄がみえます。
 
ライオンは一回食べると丸2日は満ち足りていて、何も食べなくても空腹を感じないそうです。
彼にとっては今日のインパラは何日目の食事だったのでしょうか。
彼が1匹で仕留めたのでしょうか。それとも家族と共に狩ったのでしょうか。
お腹一杯食べた残りはブッシュの中へ隠したのでしょうか。みんなで分けて食べたのでしょうか。
いろいろの状況が想像できるのですが、本当のところはどうなのか、ライオンに尋ねる方法が解らないのです。
 
      
     インパラの脚の骨だそうです。まだ生々しい色が残っています。