ボタンのついたお肉 
 
 

    『ボタンのついたお肉』ってご存知でしたか。骨の付いたお肉なら

スペアリブ、骨付き鳥もも肉、鳥の手羽先など食べたことはありますが、

さて『ボタンのついたお肉』なんてこの年になるまで聞いたことがありま

せんでした。なんとタコの足のことなのですって。ほら、タコの足には

ずらっと順番に丸い吸盤が大きいのから小さいのまで規則正しく並んで

いるでしょう、それなのだそうです。

  朝日新聞に週1回、幼児が口にした可愛らしい言葉がときどき掲載

(『あのね―子どものつぶやき』)されています。その中の一つに『ボタン

のついたお肉』と言う言葉がでてきたのです。食卓にのぼるあのタコの足

の事だったのです。そう言われてみると茹でたタコの薄赤い足に白い吸

盤がいかにもお行儀良く2列縦隊で並んでいます。言われてみればなる

ほどボタンが並んでいるように見えます。大人はそれを見ても「あれはタコ

の足に付いている吸盤だ」 としか考えません。子供ならではのあまりに

可愛らしい

表現に驚き、感激して忘れられません。生鮮食品売場でタコを目にする度に

その言葉が蘇り、思わず笑みがこぼれてしまいます。我が家でもときどき

『ボタンの付いたお肉』 を酢の物にしたり、唐揚げにしたり、ちょっと

お洒落にイタリア風サラダにして食卓に出すことがあります。


  そういえば、私の娘も小さい頃、カルピスのことを『ミルクジュース』と

呼んだり、収穫したばかりの新鮮なトウモロコシを見て『緑のお洋服を着た

西洋人』と言ったことがありました。子供は既成概念にとらわれず、自分が

知っている限りの言葉を自由に紡いでまるで詩のように思いつくまま口に

して大人の心をなごませてくれます。

  それに比べると最近の国会中継やニュースで見かける国会議員の先生

方の語彙不足は嘆かわしい限りです。まるで壊れたレコードのように恥ずかし

げもなくみんな同じ言葉を何回でも繰り返しています。政界での不祥事に

対する大臣や党幹部は『粛々と』という言葉がとてもお気に入りのようですし、

まるで蚕が糸を次々に吐き出すように『秘書が』、『秘書が』と繰り返して

います。挙句の果てに急に健忘症にでもなったかのように『記憶に

ございません』の連発にいささか呆れています。あまり同じ言葉が何回も

出てくるとうんざりします。せっかく豊かで美しい日本語があるのですから

議員の先生方もあまり画一的な表現ばかりでなく真実を自分自身の言葉で

話してほしいと思います。