胡麻をする 

  「あなたの好きなおこわをふかしておいたわよ、胡麻塩もいっぱい

あります」と言うと、夫は「嬉しいなあ、たっぷりたべるぞ。それで

何をしてほしいの?」と問い返した。誕生日以外に彼の好物のおこわを

作った時は決まって何か頼みごとがあるとき。確かにおこわには胡麻

しおを添えていたが実はひたすら胡麻をすっていた。しかも見すかされて

いたとは…。今回のお願いごとは庭の草むしりだったが、次の休日に

きれいに手入れをしてくれた。           

  胡麻は日本人なら誰でも何かの折によく口にする。おこわにかける

ごま塩、ホウレンソ草の胡麻あえ、胡麻のおにぎり、ちょっとお弁当の

御飯に振り掛けたりするし精進料理での胡麻豆腐は有名である。また、

最近では健康食品の筆頭にも挙げられ人気上昇中だ。我が家もよく

いろいろな料理に使っている。

  ところで『胡麻をする』という慣用句以外にも胡麻と言う単語はいろいろ

に用いられていて語源を探れば面白いだろうなと思う。『誤魔化す』は

胡麻菓子から派生した言葉との説があるが、どのような食べ物も

胡麻を少し入れると美味しく化けるからと言う説もある。

私は後者だと思う。あまり良くない意味で使われているのが残念である。

胡麻の原産国はインドあるいはアフリカとされているがはっきりしていないらしい。

ルートはインド,中国,韓国,日本の順かしら。中国でも食用に供され、

料理にはふんだんにごま油が使用されているし、点心の一つである香ばしい

胡麻だんごはたまらなく美味しく大好きだ。

原産国であるインドやアフリカではどのようにして食べているのだろう。

私の数少ない経験によると、フランス料理ではまだ胡麻を使ったお料理は戴いた

ことがない。ヨーロッパよりアジアの方がより多く食べられているかもしれない。

あの有名なアラビアン・ナイトの中の『アリ・ババと40人の盗賊』では

重い岩の扉を動かすために「開け胡麻」という呪文を唱える場面がある。

呪文のキーワードはなぜ胡麻なのだろう。子供の頃は何の疑問も無くあの呪文を

受け入れ、何かにつけ扉をあけたい時には友だちと声をあわせて「開け胡麻!」と

叫んでいた。中近東では昔から身近な植物だったのだろうがどのように

利用していたのか知りたいものだ。呪文の言葉になるくらいだから大量に

生産されていたか、あるいは極めて高価なものだったに違いない。

そう言えば日本でも放送されている『セサミストリート』はアメリカの

子供向けテレビ番組だし、その昔夫がアメリカ留学時に住んでいた所はまさに

セサミストリートだった。アメリカでも広く親しまれているのだろう。

さあ、今夜のサラダ用に『胡麻ドレッシング』を作りましょう.