群馬天文台にて


 今年はゴールデン・ウィークの初日に、高山村にある【ぐんま天文台】へ出かけた。

屋外にイギリスの遺跡ストーン・ヘンジやインドの巨大な日時計サムラート・ヤントラ、

天体観測施設ジャンタル・マンタルなどを模したものがあるというので一度見てみたいと思っていた。


 駐車場へ車を置いた後は徒歩で600メートルの遊歩道を登っていく。

幅2メートルほどの木の階段が綴れ折りに続く遊歩道で、道沿いに植えられた山桜の小さな木は

散り終わったばかりのようでまだ蕚が残っていた。土手にはたんぽぽが咲き、小さなトカゲが

ちょろちょろと走り回り、まだ豆粒ほどの蓑虫が定住の枝を見つけて動き回っていた。

上方ではウグイスがまるで私たちの後をついて回っているかのように一声鳴いては枝から枝へ

移動しているのが見えた。白と紺に塗り分け「○合目」と書かれた杭が一定の間隔で立てられ、

ちょっとした登山気分が味わえるように工夫されていた。勿論、疲れた人用の腰掛けもところどころに

用意されていた。


 やっと到着した天文台の周辺は標高885メートルで群馬はおろか新潟から長野にかけての今なお

雪を頂く山々が一望に見渡すことが出来て素晴らしい景色だった。夜間は結構星や月の観望に訪れる

人が多いそうだが、日中の見学者は少なく、館内は勿論のこと屋外に作られた古代の天体観測施設を

ゆっくり見学して回ることが出来、遠い昔の人たちの天文学に関する知識の深さに改めて驚いた。

館内ではリアルタイムで見られる直系1メートルの太陽の投影図があった。なぜか黒点が蜃気楼のように

細かくゆらめいていて、眺めているとすっと引き込まれそうな気分になってしまった。天文台の両端には

11メートルと7メートルのドームがあり、直接眼でのぞくことの出来る望遠鏡の中では世界最大級とされる

直径150センチの望遠鏡と65センチのものがそれぞれ備えられていた。ドーム内の出入りも自由で、

入るとすぐに研究員の方が出てきて望遠鏡についての説明を細かくして下さった。展示室では星と地球との

距離の計算はどのように行うかとか星の明るさと距離の関係、スペクトルの解析方法などがミニチュアを用いて

説明されており見学者には至れり尽くせりの施設だった。


 帰路、この階段は駐車場まで何段くらいかしらと思いながら歩きはじめた時、往きに天文台を目指して

登っている時、目の前の蹴込みに【400/522】という数字がうっすら見えたことを思い出した。

その時は何気なくやり過ごしたのだが、もしかすると階段の数かもしれないと気付いた。それから

段を数えながら降り、時々振り返って蹴込みを確認した。案の定50段毎に数字が書かれていた。

上る時に見えたのは下から400段目の所だったのだ、600メートルの遊歩道は522段になっていたのだ。


 帰りの車中で『あの遊歩道の階段だったと思う?』と家族に尋ねてみた。夫は『うーん、650段くらいかな』、

娘2人は『250段そこそこかしら』と答えた。(疲れ具合によって感じ方が違うのかしら。やはり老人は実際よりも

多く感じるのかも知れないわ)と思った。もしも私が実際の数を知らなかったら何段と答えただろうか。