【今時の若いひとは・・・】

 我が家恒例の年末年始のスキー旅行も終わりに近づいた1月2日のこと。
いつも通り夫や娘達には先に行って貰って、私はマイペースでゆっくりと
気持ちよく滑っていた。ちょうどゲレンデの中程に差し掛かった時、右の方から
スノーボーダーが滑り降りてくるのが眼の端に捕らえられた。このままでは
ぶつかると思い、とっさにかわそうとしたが間に合わず、衝突してしまった。
相手も気が付いていたと見えてお互いに減速していたのでそれ程激しくは
ないものの板同士がぶつかってしまい私の方は右腰を下に転がってしまった。
どこも痛くはなかったが、今シーズンは調子よくこの日までまだ一度も転倒しないで
来られたので、帰宅近くになってから転んだ事が悔しく、直ぐに立ち上がる気がせず
しばらく転がっていたかった。

 ふと横を見ると相手のスノーボーダーはゲレンデの脇へ寄って心配そうに
私の方を窺っていた。さすが若者、彼はちゃんと転ばずにいて私が立ち上がるのを
心配して待っていてくれたのだ。『大丈夫ですか』と声を掛けてきた。
『何処も痛くしなかったから大丈夫よ』と返事をし、直ぐに立ち上がろうとしたが
何しろにころころ着込んでいる上にスキー板をつけた足は容易に立ち上がれない。
四苦八苦して立ち上がって滑ろうとしたら、なんと先ほどの彼はまだ私の方を
見ているではないか。『本当に大丈夫なのよ、どうぞ滑って行ってください』というと
ようやく彼は頭を軽く下げて滑り降りていった。

 今回の転倒は多分双方の前方不注意が原因だったように思うが、今までの
経験からすると仮に相手の非が95%あったとしても殆どの人が転がった私を
そのまま残して知らん顔で行ってしまう。今回のように声を掛けた上でなお
起きあがるのを見届けてくれた人に出会ったのは初めての経験だった。
私くらいの年齢層の人間が『今時の若いひとは』と言う台詞を口にしたとき、
それに続くのは大体は否定的な言葉である。
『今時の若いひとは・・・』のあとには 
1)正しい日本語が話せない、 
2)自分勝手で他人への思いやりに欠けている、 
3)だらしがない、
などなど眉を顰めて口にする非難の言葉が殆どだ。

 でも、今日私が言いたい言葉は 
『今時の若いひとだってちゃんと礼儀をわきまえている人がいるわよ!』 
まだまだ世の中捨てたものではない、嘆くのは早い、明るい見通しもあるのだ。
 贅沢を言わせて貰うなら、手を引っ張って立ち上がらせて貰いたかった。だって、
相手は若くて可愛い男の子だったのですもの。