神の国


 

   先頃、森首相が「日本は天皇を中心とした神の国である」

と発言したことでにわかに世の中が騒がしくなった。神道の

関係する会合で演説したためにひょいと口をついてそのよう

なことを言ったのか、彼が心底そのように考えているための

発言なのか確かではないが、記者会見で「あの発言で誤解を

招いたのなら謝る」とは言ったが発言の撤回をしなかったと

ころをみるときっとそのように考えている結果の発言なのだ

ろう。一市井人が言うのであればまだ許されるが、立場上あ

の発言は問題があると私は考える。         

 

  あれから、テレビのニュース、ワイドショウ、新聞、雑誌

などいたるところで取りざたされている。発言が問題になっ

てすぐ、私はある歌を思い出した。小学校に入学して間もな

くの頃のことを不意に思い出した。旋律と歌詞がいきなり蘇っ

てきたのだ。        

『神生みませるこの国は海原広きおおやしま・・・』。

それは当時、小学校へ入学して間もなく多分1年生か2年生

のころに耳にした歌である。戦争が始まって1,2年くらい

の頃だと思う。教室で授業の最中、先生の話の合間を縫って

遠くから切れ切れに聞こえてきた合唱の歌声だった。上級生

の音楽の時間だったのだろう、2部合唱か3部合唱だったよ

うな気がする。とにかく静かできれいな曲だと聞き惚れてい

た。その日一日だけでなく、何日も続けて聞いていたように

記憶する。まるでコンクール出場のために練習しているかの

ように、当時子供だった私の耳にはすばらしい歌声に聞こえ、

いつも先生の話はそっちのけで聞いていた。何という題名だ

ったのか分からないし、以後私がその歌を習った記憶がな

い。後半の歌詞が定かでないがメロディは最後まで思い出し

た。                    

 

  あの戦争の当時、神話の世界そのままの建国のいきさつが

子供たちに教え込まれ『神生みませる国』と『天皇は神様が

人の姿をされているもの』と教育された。森首相のあの講演

内容を読んで、いきなり歌の歌詞と旋律を思い出すのと同時

にあの戦中・戦後の荒廃しきった私たちの生活や街の様子が

蘇ってきた。誰にとっても苦々しく、悲しい思い出である。

 

  長い間、思い出しもしなかったあの歌をいきなり思い出さ

せるほど、あの言葉は強烈な印象を与えた。森首相の年齢が

いかほどか知らないが、以前にあの歌を歌われたことがあっ

たのだろうか。あの発言は55年あまり前のあの時代にいき

なりタイムスリップしてしまったような強烈な印象を受けた。