ケータイ(1)見ればなっとく


先日、元イングランドのサッカー代表選手のベッカムさんが
奥さん同伴で来日された(来日中にれあるマドリードへの移籍が
決まってまたまた話題の主となったが)。昨年の日韓共催ワール
ドカップで両国とも大いに沸き、俄サッカーファンが増え、ハンサ
ムな選手には大勢のギャラリーが付きまとったようだ。なかでも
ベッカムさんはイングランドチームの主力でしかも甘いマスクの
持ち主ななので多くの若い女の子のファンを引き付け注目の的
だった。あのワールドカップから1年あまりが過ぎた現在その
人気はどうなったのかと興味津々で空港到着の様子を夜の
ニュースでチェックした。

 どうしてどうして「ベッカムさま人気」は健在だった。空港で
出迎えに集まったのは若い女の子ばかり、その人数は大した
ものだった。彼の姿が遥か遠くに見えるやいなや、サッカー選手を
出迎えると言うより、人気絶頂の映画俳優かタレントさんでも迎える
かのように黄色い声が飛び交う。当時のモヒカン刈り風ヘアスタイル
こそ変わっていたが奥様と手をつないだ甘いマスク、私だって忘れて
はいなかった。夫妻が待ち受ける人々の近くへ差しかかると、
殆どの人が腕を上に上げはじめた。ニョキニョキ上がっているのは、
今はやりの写真機能つきケータイだった。一斉に頭上にかざしている
光景は壮観だった。我が目で確かめるだけで無く写真に撮っておこう
と言うわけだ。あるいは空港に来られなかった友人のためのものか。
その有り様は翌日のニュースでも何度か放送された。くり返しその
映像を見ている内に、あの砂漠に住むミーアキャットの姿を思い
出してしまった。ケータイを持つ手が何本も伸びている様は、まるで
しっぽを支えにして2本足で立ち上がって、遠くを見回す小動物
たちの姿にそっくりだ。      

 街で出会う若者達のかなちの人がケータイを耳にあてがっておしゃ
べりしながら歩いているし、車中でも喫茶店でも本当にどこでもケー
タイを眺めている人、ちくちく親指を動かしている人が多い。今時の
若い人たちはもうそれ無しには暮らせない必需品になっている。憧
れのベッカム様だって出迎えるだけでは満足せず、ばっちり写真に
おさめれば何時でも彼に会えるし、第一友だちに話す時の証拠写真
にもなると言う訳だ。                             

 先日、診察室でいきなりバックからケータイを取り出して私の方に
向け『1週間前から痒いものが時々できるんですがすぐに消えてし
まうんです。昨日できた時に写真に撮っておきました、見て下さい』
とのこと。確かにそこには膨疹がばっちり撮影されていた。皮膚科
教科書には蕁麻疹について《個々の発疹は24時間以内に跡形な
く消える》と書かれている。まさに蕁麻疹の特徴は直ぐに消えてしま
うことなので、何もできていない皮膚を見せても信じてもらえないと
思ったそうだ。なるほど、これは説得力がある。お陰で私も「それは
蕁麻疹と言う病気です」と断言することができた。医者をも納得させ
た写真機能つきケータイだった。