【シニア料金】
 65歳になって間もない頃、昼休みを利用して訪れた「群馬の森・美術館」の入場券発売窓口で
〈シニア料金 ○○○円、65歳以上〉 という文字が目
に入った。(あーら私、該当者だわ、早速
利用させてもらいましょう)と少しドキドキしながら『シニア料金の入場券、お願いします』といった。
馴れたもので窓口
嬢は『はい、運転免許証とか健康保険証あるいはパスポートなど、あなたの年齢を
証明するものを見せてください』。当たり前の事だ、年齢を証明しない限り
発券出来ないに決まっている。
ところが私は運転免許証はまだ取得していないから持っていないし、ふだんから健康保険証や
パスポートも持ち歩く習慣が無
い。恐る恐る『済みません、今日はそう言ったものを何も持ってきませんでした』
というと、『じゃあ今日は見せなくても良いですから、この次から持ってきてください
ね』と優しいことば、
結局その日は証明無しのままシニア割引をしてもらった。
 
 私が学生時代に講義を受け、皮膚科へ入局してからも9年にわたってご指導くださった故山碕順教授は
退官後、東京暮らしをされていたが、どこかの学
会でお会いした際の雑談で、『東京都は老人に優しいよ、
都バスはただで乗れるし、上野の動物園も無料なんだって』と仰っていた。当時は何気なく聞き流
していたが、
自分が歳をとってくるとやたらと〈老人優先席〉とか〈シニア割引〉などの文字が目に付き、何となく山碕先生
との会話を思い出していた。割引と言
えば、若い頃〈学割〉で当時の国鉄や映画館でさんざんお世話に
なったものだ。学生結婚だった私たちは新婚旅行を夏休みまで待ってちゃっかり北海道ま
出掛けた。
最近では割引率は下がっているが、当時の学割は半額になったので大いにありがたい制度だった。
帰省の際も旅行の時も、その制度を利用させ
て貰ったし、歳をとった今は、老人に対するさまざまな
福利厚生の制度をありがたく活用させてもらっている。
 
 先日、大学時代の友人たちと話をしている時にシニア料金が話題になった。旅行や学会出張にJRの
制度を利用している人が多かった。中の一人は、何
年か前に白髪同士の知人3人でデイズニーランドへ
行ったときの打ち明け話をしてくれた。入場パスポートを求めようとしたら、窓口嬢いわく『シニア割引のパス
ポートもありますから、それになさるとお得ですよ』とのことだった。確かに白髪は多いもののまだ割引適応の
65歳にはなていない面々だったがこれ幸いと、『じゃ
あ、シニアで3枚お願いします』と素早く答え、
労せずにシニア割引パスポートをゲットし、楽しくデイズニーランドで時を過ごしてきたとのことだった。
 
 近頃、博物館や美術館へ行く時は忘れずに健康保険証をハンドバッグに入れるようにしているが、昨年、
江戸博物館へいった時は家を出る直前にハンド
バッグを取り替えた為に健康保険証を入れ忘れた。
試しに『保険証を忘れたのですが65歳以上です』というと、『財布の中にどこかの病院の診察券でも無い
ですか?』という言葉が戻ってきた。まさか、診察券とは恐れ入った。年寄りになると誰でも病院通いを
しているという前提条件のもとの言葉だろうか。『済みま
せん、健康なので診察券も持っていません』、
『じゃあ駄目、一般券です』でお終い、そう甘くはなかった。
 
 高齢化が進み、地方自治体や各施設の予算配分も大変と見える。いつの間にか群馬の森・美術館、
博物館はシニア割引の制度を止めてしまったし、京
都国立博物館のシニア料金は70歳以上ときめられて
いる。高齢者が増えるこれからは、ますますシニア料金適応年齢が引き上げられるのではないだろうか、
頑張って長生きしてこの素晴らしい制度を大いに利用したいと友人と話し合っているところだ。