あこがれの回転寿司


  回転寿司が世間で大流行してからもうかなりの月日が流れたが、
私は未だ回転寿司のお店に行ったことがない。そのアイデアを実現する
までの苦労話や、寿司をのせた台の回転速度を決めるまでの試行錯誤や、
酢飯を握るロボットの力の加えかたの工夫にひとかたならぬ努力をした話
などを見聞きするにつけ、食べに行ってみたいと思う気持ちが募ってきた。
さらに、昔ながらのオーソドックスなお寿司以外に、デザートのお皿まで
回転していると聞くと私の気持ちはいやが上にも盛り上がってきた。想像
すれば想像する程我慢ができなくなる、こうなったら是非とも行かなくては
気が納まらない。

  帰りが遅くなることが予め分かっている日は、前日にカレーを作って
置いたり、自宅のすぐ近くにあるお寿司やさんを利用していた。そうだ、
今度はいつものおみせでは無くて回転寿司やさんへ行けばいいのだと
夫を説きふせた。

  その日はほどなくやってきた。長引く会議の最中、不謹慎にも(ああ、
とうとうあこがれの回転寿司デビュウの日がきたわ)とほくそ笑んだ。
9時半近くに、以前から目星をつけて置いたお店へ出かけた。外から
店内を眺めると、席に座っている人はまばらだった。空いてて良かった、
座れると思いながらお店に入った。だが何か様子が違う。「ええっ、

お寿司の回転台が空っぽで止まっているじゃないの、お皿は一枚も
乗っていない、どうして」とショックだった。回転台の中央には数人の
職人さんが立っていて、『お客さんが減ったので回転は止めました。
何でも注文してください、私らが握りますから・・・』と言われた。まさか、
回転してないから帰りますと言うわけにも行かず、おずおずと座った。
壁にかかっている「お品書き」を見てもネーミングだけではぜんぜん
ピンと来ない。昔の型に捕らわれずに作られた斬新な若者好みの新しい
創作寿司を目で見て選びたかったのに・・・。回転してくるお寿司の中から
選んで食べたかったのに残念だ。結局何時も食べ慣れているような
当たり障りの無いものばかりを注文して、そそくさと食べてデザートもパスし、
何故か逃げるようにお店を出てしまった。考えてみたら、夜遅くなり、
お客も少ないのに沢山のお皿を回しても残るのは目に見えているわけだ。
回転をとめるのは当然だ。

  期待に胸を膨らませて勢いよく乗り込んだ回転寿司デビュウは敢え無く
失敗に終わった。夫はもう回転寿司には行かないと言う。私の正式の
回転寿司デビュウは当分実現しそうにない。