《トルコの休日》  ちょっとブレークして 《みづち》 その4
     
       【創作オペラ《みづち》前橋公演の合唱に参加しました】 
 
 

【メイク・・・・・「姫より白くしてはいけない!」】

オペレッタ《こうもり》の時、メイクに関しては特に何の指示もなかったので、皆いつも自分が使っている化粧品を持ってきて、普段より濃いめの化粧をすればよいとのことでした。いい年をしているのに私はあまり熱心に化粧をしたことが無かったのです。いつも下地兼日焼け止め、ファンデーション、頬紅、口紅で終わりでした。「濃いめに化粧」と言われてもよく分からないし、化粧品も持っていません。同じ合唱団で参加している方にお願いして、その方の化粧品を使ってすっかりメイクして頂きました。眉も整えて、アイラインまで入れて、すっかり化粧して頂き、助かりました。
 
今回は農村のおばあさんなのでノーメイクのままで良いのかしら、と思っていました。
本番当日、合唱団代表のソプラノのOさんが小さな箱を抱えてきて楽屋に戻ってこられました。「皆さん。今日は全員ドーランで化粧をして下さいと言われましたからお願いします。ドーランは水性と油性がありますがどちらでも良いそうです」
箱には、普通の肌より遙かに褐色っぽい色のドーランの容器がが2つと何個かのスポンジが入っていました。どちらのドーランも肌色よりかなり濃いめに見えました。
若い人達は不安顔で『ええー、こんな色。やだ、私こんな色は使ったこと無いわよ』と言っています。
年かさの私たちは『私たち、百姓女だから日焼けしているの当たり前よ。仕方ないわ、さあ、塗りましょう』となだめる立場になりました。水性でも油性でも色は同じようなもの、変わり映えはしません。私は油性を使ってみました。ドーランを初めて使いましたが、結構きれいにむら無くつきました。私は「シワを描いたらどうかしら」と同じ合唱団の仲間に言ったら、「そこまでやることないわよ。日焼け肌だけで充分、充分」と言われ、シワをつけるのはやめました。
鏡をのぞくと、いかにも日焼けした顔が見返してくるではありませんか、思わず苦笑いです。『あーら奥様。よく日焼けなさいましたわね』、『奥様こそ。日焼け止めクリームはお使いにならないの? お肌に良くないですよ』などと言って笑い合い、本番前の緊張がちょっと弛む一時になりました。互いに日焼けした顔を見合わせ、始まるまでのひとときを待ちました。
 
程なく、『ねえねえ。私たちの顔は、お姫様より色白にならないように濃い色のドーランを渡されたのですって』と、誰かがどこかから伝え聞いた話を楽屋中に伝え、たちまち、色黒ドーランの種明かしは広がりました。
そうでした、《みづち》では夕月姫が2幕目から登場し、小太郎への思いを姥にあかし、小太郎と共に「みづち」救出に向かうのでした。「蝶よ花よ」と育てられたやんごとなきお方、打ち掛けの裾を引きずりながら、物静かな立ち居振る舞いをするお方です。来る日も来る日も田畑で真っ黒に日焼けして働いている私たちと同じ顔色のはずがありません。だからこそドーランの色が指定されたのでした。皆納得しました。舞台照明のもとで初めてのドーランメイクは、美しい姫と、農民との区別はついていたのでしょうか。
 
【ヘアスタイル】
 源氏物語絵巻では貴族・公家などセレブのご婦人は「おすべらかし」で、黒髪が背中を流れて腰まで届いています。でも、農民はどうだったのでしょうか?
どうやら農村の女性は肩の下あたりまで延ばした髪を一つに束ねていたようです。でも今の時代、そのようなヘアスタイルの出来る方はごく僅かです。茶髪・金髪・ショートカット・パーマネントなど多種多様です。男性だって長髪を髷のように束ねていたようです。少なくとも、いわゆるざん切り頭のショートカットは明治維新以降のスタイルです。経費のことを考えると、その他大勢の全員がカツラなんて望外です(もちろん主役・準主役の方々は男女とも全員カツラをつけられました)。どのように解決されるのか気になっていました。
どなた(選出家の先生?、衣装さん?) が決められたのか解りませんが、無地で色とりどりの手ぬぐい状のかぶり物が配られ、髪の毛を包み隠すように指示されました。これで男女のヘアスタイルは一気に決着しました。
 
要するにショート、ロング、茶髪やパーマネントが見えなければよいと言うことなのでした。被り方は各自にまかされましたした。出来上がってみるとスタイルはさまざまで、子守女風、ターバン風、海賊風、一部前髪を見せる人、後ろからポニーテール状に出す人、眉の上から頭全体をすっぽり隠してしまう人など、何通りものスタイルが出来てそれなりに楽しいでした。このかぶり物一つで何となく1000年前にワープしたような気分になりました。
 
衣装係さんは立ち稽古の時に合唱団員たち全員の配置を前から眺めたり、デジカメで写真を撮ったりして、皆の着物の色・柄や、立ち位置などを見極めて、かぶり物以外にも、半襟、踊りの小道具である手ぬぐいなどの小物を各人の着物の色・柄に合わせて選んで下さいました。大変な手間だったと思いますが、さすが本職は違います。沢山の布の中から、手早く一色を選んで各人に渡していかれました。私のきものは細かい地紋のあるベージュで前掛けは緑がかった藍色(よく見たら和服の袖に紐をつけたものでした、凄いアイデアです)で、かぶり物は淡い紫色、半襟はややオレンジっぽい茶色、手ぬぐいはカーキ色と言う組み合わせでした。色だけ羅列すると支離滅裂のようですが、思ったよりしっくりしていました。
 
                            ーーーつづくーーー