嘘も方便?



  「もしもし、奥様ですか?今回壁紙の汚れなどを落とす、ジェット噴射のようなお掃除

用具が出来ましたの。とてもきれいになるのであちこちで喜ばれております。是非一度

お試しになりませんか、直ぐにおうかがいしますので試してみてください」との電話。

大学を辞めてから木曜日は主婦業に専念する日と決めて掃除・洗濯など家事に励んでい

るのだがときどきこの手の電話がかかってくる。あれこれと話を聞いていると際限なく、

へたをすると必要でもないものを買う羽目に陥る事を知った。すかさず「私、お掃除好き

なのでいつもピカピカです、せっかくですが必要ありませんの」と言って電話を切った。

実を言えば、お掃除は不得手だし壁紙も窓ガラスもピカピカの状態とはほど遠い。「外壁

塗り替えのサービス月刊です。割安ですからこの際是非見積もりさせてください」「あら、

家では先月塗り替えてもらったばかりですの、ごめんなさいね」返事をためらうと嘘がばれ

そうなのですかさず答える。あーあ、また嘘をついてしまった。神様ごめんなさい。



 昔から『嘘も方便』ということわざがあるが、相手に迷惑のかかること以外は大いに

このことわざを実践中である。そういえば中学の頃ことわざ集めに熱中したことがあった。

戦後、あまり間もない頃だったが書店で小さな【ことわざ辞典】をお小遣いで買って暇な

ときにぱらぱらめくり読んでいた。最近、一番気に入っているのが【嘘も方便】であるが、

【絵に描いた餅】というのもよく思い出す。




 木曜日に一日主婦として過ごすようになってから、あれこれ売り込みが多いことが分か

った、主婦も大変だ。電話やら訪問販売にいちいち付き合っていたのではせっかくの主婦業も

疎かになり、時間のロスにつながる。そこでもっぱら『嘘も方便』を活用することにして

いるのだ。電話での売り込みは相手の顔が見えない分、気軽に嘘をつけるので比較的気が楽だ。

しかし、訪問販売で相手に面と向かってまことしやかな嘘をつくのはちょっと気が引ける。

そうは言ってもいちいちおつきあいで買い物をしていたのではこれも大変。そこで最近の私の

テクニックは新たに親戚・縁者を作り出すことだ。「奥さん、信州から味噌の直接販売に来た

からいかがですか」、「従姉妹が信州のお味噌屋さんに嫁いでいて毎月送ってくれるので」。

「布団の丸洗いはいかがですか」「親戚が布団屋さんでそこでやって貰っているので結構です」

と言う具合。実は父も私も一人っ子、母は兄一人しかいなかったし、従姉妹たちも少人数で

係累の少ない家系である。しかしここ数年、親類・縁者を爆発的に増やしてしまい、さらに

留まるところを知らない。この分では日本中の人が私の親戚にもなりかねない勢いである。