「異本病草紙」考−その5

      高崎市医師会  服部 瑛
      国立京都病院  荻野篤彦


16)巨大な男根を見せて踊る男(図16)



 勃起した男根を紐で引っ張り、右手に持っ
た扇子のようなもので叩いて踊っているので
あろうか。男根を見せている男はあきらかに
僧侶であり、柱にかかる幡(ばん)や須弥壇
(しゅみだん)などの仏具類から、お寺の中
での催し物である。観客は、編笠や頭巾をか
ぶった上流階級の女や僧侶、そしてその僧侶
に伴う稚児などが描かれている。
 性器は豊穣の象徴であることから、安産祈
願や子供を授かりたいといったような儀式だ
ったのではあるまいか。
 他の模本(京博本)では、女性が陰部を多
数の人達に見せている絵図があり、このよう
な陰部を大衆の面前に晒す光景は、その当時
珍しいことではなかったかもしれない。



17)囲炉裏(いろり)に落ちて大ヤケドを
する男(図17)



 病み上がりのためかよろめいて囲炉裏に落
ちて、慌てている様子が描かれている。
 ようやく起き出して、食事の支度をしてい
たのであろうか。羽釜が投げ出され、お米と
おぼしき粒が沢山飛び散っている。囲炉裏の
奥には枕と夜具が散乱して見られ、この男は
臥せっていたと思われる。そのために転びや
すい状態であったように推察される。
 病人で下帯をつけていないのは理解できる
が、陰部を克明に描いていることがこの絵巻
物に特徴的であり、興味深い。
 場合によっては、癲癇発作などが直接の原
因かもしれないが、不明と言わざるえない。
律令時代に認められていた疾病には、「癲狂
」という病名があり、「癲」はてんかん、「
狂」は精神分裂病を意味したという。



18〜20)全く不明な絵(図18〜20)

図18

図19

図20

 図18は、仰臥する腹部上を天蓋で覆って
いる場面である。まわりの男たちも女たちも
中国風である。全く意味不明な場面である。
あるいは外科的処置の場面なのかもしれない
。次の絵(図19)では、仰臥する老人が上
掛けを蹴散らして暴れているように見える。
その様子を中国風の二人の女が見ている場面
である。
 図20は、雲に乗った中国風の男たちが、
大きな卵状のものを運ぶ様である。場面設定
上、やはり全く意味不明である。
 これらの3図は、他の絵図と異なりすべて
が中国風に描かれ、また連続しているので、一
連のスト−リ−を物語る情景である可能性も
考えられる。
 荻野篤彦先生(国立京都病院)は、これら
の図に大胆な解釈をされた。次回に記載させ
ていただく。