高脂血症治療薬(スタチン)と帯状疱疹

先日私の先輩の内科医から帯状疱疹の患者さん(65歳、女性)を
紹介された。然るべき、適切と思われる治療で治癒したことは云う
までもない。

 その後、その内科医の先生から半年前から高脂血症治療剤の
リピト−ルを使用しているが、その副作用の中に帯状疱疹が
記載されているのだがどう理解したらよいのかという質問があった。
その時点で私にとって全く知らない事実だったので、調べてみましょうと
返事するしかなかった。

 HMG−CoA還元酵素阻害剤(スタチン)の一つであるリピト−ルの
副作用項目を見ると確かに帯状疱疹の記載が認められた。ごく最近、
別の同様薬剤で死亡例もあったことでもあるので、早速その会社の
プロパ−さんに聞いたところ今まで治験患者3例に帯状疱疹の発症が
あったという。因果関係は別にして私の症例が、リピト−ル内服中に
発症した帯状疱疹の4例目となるかもしれない。

 ひょっとしたらスタチンは免疫系に影響するのではないかと考え、
そのプロパ−さんに調べてもらった。数日後、スタチンには免疫抑制
作用1)があることを報告してくれた。その機序は、スタチンがIFN−γによる
MHC−U発現誘導の直接の阻害薬としての作用があるらしい1)。
私の不勉強であった。別の調査から他の同様薬剤でも帯状疱疹の発症が
僅かながら確認できた。そしてこれらのことからスタチンは、高脂血症改善
以外人体に様々な影響を及ぼしているらしいことがはじめて理解できた。

 最近、日本の医療では、コレステロ−ルや中性脂肪が高ければ、スタチンが
安易に投与される傾向があるように思われる。しかしながらその副作用に
関しては十分に理解されていないきらいがあるのではないか?

 帯状疱疹は、悪性腫瘍の合併や免疫抑制剤の使用は別にして、通常の
薬剤との因果関係は考慮されていないように思われる。ましてやスタチンと
帯状疱疹との関係を御存知の先生方は意外に少ないのではないかと
推察される。注目されていないだけに、スタチンによる帯状疱疹の発症は
予想以上にあるのではないかと内心危惧している。

 そこでこの欄をお読みの先生方に是非お願いしたい。今までにスタチンを
服用中帯状疱疹を発症した患者さんがいらしたら是非報告、あるいは
教えて頂きたい。また帯状疱疹の患者さんにスタチンを服用中であるか、
今後問診して頂きたいと思うのである。さらに帯状疱疹を専門にしている
先生方にはその因果関係を是非ご教授願いたい。

 偶然だが、帯状疱疹発症の一つの原因として浮かび上がった仮説として
あえて報告させて頂いた次第である。


         文献

1)佐々木淳,Geriatric Medicine,39:587,
 2001

(高崎市 服部 瑛)