『皮膚障害と農業・農村』を読んで

 先日、堀内信之先生から『皮膚障害と農業・農家ー原因・治療・予防』という
書籍を贈呈いただいた。まず題名を見て、その視点の独自性に興味深く思った。
地味な分野ではあるが、実は私たち皮膚科医にとってきわめて重要な内容を
含んでいると思ったからである。

 内容は、「農薬による皮膚障害(農薬皮膚炎)」が中心を占める。そして
「化学肥料による皮膚障害」、「ゴム製品による皮膚障害」、「栽培植物による
皮膚障害」、「酪農による皮膚障害」、「動物による皮膚障害」、「微生物による
皮膚障害」、「日光による皮膚障害」、「寒冷による皮膚障害」、そして「心因的
要因による皮膚障害」から構成されており、ふんだんに鮮明な臨床写真が掲載
されている。農業・農村における皮膚科領域のエンサイクロペディアと言っても
過言ではない。

 堀内先生は、佐久総合病院皮膚科に30年間勤め、昨年退職された。
佐久総合病院は、故若月俊一先生が創設された「農民とともに」、「地域の
中へ」を今なお実践している希有な、それでいて高度な医療を担っている
病院であることは周知である。そのなかで先生は、かたくなに、着実にそして
確信をもたれて農業・農村医療を皮膚科的に実践されてきた。30年にも
及ぶご経験・含蓄は私たちを魅了するに十分である。

 堀内先生は、あとがきの中で「農村医学的なアプローチとは、農業、農村の
なかで起こっており、その解決が求められている問題を、現地でその当事者
たちと一体になって取り上げ、専門家の立場から協力していくことであろう」と
述べておられる。これこそ堀内先生の真骨頂であり、さらにあまねく医師としての
原点であるように思われる。

 農薬皮膚炎は、本邦では現在その患者は少なくなっており、すでに貴重な
歴史資料となっている。むしろ未開発国に重要な情報を与える書物かもしれ
ない。しかしながら、中国などから日本への輸入野菜で、農薬問題が新たな
社会問題になっていることは記憶に新しい。

 さらに先生は、「農薬を取り扱う人達に、農薬の恐ろしさを改めて認識して
もらうことも必要ではなかろうか」と述べておられるが、現実には日本でも
そのことが再び大きな問題となってマスコミをにぎわしている。

 どちらも先生の心配されていたことであり、杞憂ではなかった。

 多くの皮膚科医は、農業・農村と今なお緊密な関係を持たざるえない状況
であると推察される。そんな時この書は貴重で重要な情報を与えてくれるに
違いない。

 私は、その情報の大切さとともに、長きにわたって農業・農村における皮膚科
医療を実践された堀内信之先生の着実な歩みに大いなる感動と尊敬の念を
覚える。

 ぜひ一読をお薦めしたい。

      佐久総合病院 監修
       堀内信之 著
「皮膚障害と農業・農村ー原因・治療・農村」
発行所 
    (株)創森社
     5800円。
 
(高崎市 服部 瑛)