パリのミュゼ(博物館)

 今年の正月は幸運にもパリで過ごすことができた。
あるきっかけからパリに留学された弘前市の今泉孝
先生に連絡をとったところ3つの代表的な医学関係の
ミュゼを紹介してくださった。医学史博物館、公的扶助
博物館、さらにサン・ルイ病院のミュゼである。すべ
て訪れてみた。その中でサン・ルイのミュゼは4,800 もの
ムラ−ジュを整然と保存しているところで、皮膚科医に
とってきわめて興味深い。その詳細は、今泉先生が
詳しく本誌に紹介されている1)。
  訪れた際、実質的な責任者であるデュランさんは、
実に親切かつ好意的にいろいろ説明してくださった。
1958年以降フランスでは新しいムラ−ジュは作られて
いないこと、なお修理する人はいるが予算のないことなどを
お話してくださり、いくつかのフランスの皮膚科医学史の
資料や1922年刊行のサン・ルイのムラ−ジュのカタログ本
(約4,000 のムラ−ジュの診断名・症状などが記載されている)
も頂いた。
 そのミュゼはおよそ 400年前に出来た古い建物の中に
ひっそりと存在し、一般公開はされていない。驚くことに
パリ市が管理している公的な(!)博物館である。日本でも
各大学に分散してはいるが、およそ3,600 ほどのムラ−ジュの
存在が確認されている2)。しかしその保存状態は決して
良好とは言えないのではないだろうか。
 残念ながらムラ−ジュはもはや過去の遺産である。
しかし過去の皮膚科を具体的に刻んだ貴重な歴史・資料
でもある。その保存や残されたムラ−ジュの詳細な検討は、
今きわめて大切な試みなのであろう。日本皮膚科学会
100年を迎える丁度節目の時期にあたり、最優先事項の
一つかもしれない。
 昨年本誌「声」の欄に里美至先生は、石版画、ムラ−ジュ、
図譜を一堂に集めた博物館の設立を提案された3)。その
ご意見に私も全く同感である。パリのように公的ということは
難しいが、学会あるいは篤志家を中心とした皮膚科の
博物館の構想にはとても興味がそそられる。
 さらに日本皮膚科学会 100年を記念して、「日本皮膚科
医学史」なる本の刊行も是非着手して欲しいものである。
ご高齢ながら金沢大名誉教授 福代良一先生はなお
ご活躍であり、その他多くのすばらしい大先達の先生方が
私たちに多くの情報を与えてくださるはずである。過去の
皮膚科を検証してこそ新しい皮膚科が生まれるのではないか、
と私は思っている。

         文献

1)今泉 孝:皮膚病診療,15:1092,1993
2)T. Imaizumi & Y. Nagatoya : Int. J.
Dermatol.,34:817,1995
3)里美 至:皮膚病診療,22;500,2000

(群馬県高崎市 服部 瑛)