抗真菌剤のマスコミ報道について

 最近爪白癬治療の啓蒙活動と称してテレビや新聞を媒体とした
一般向け広告が実施されている。その効用として、谷口彰治先生
(大阪鉄道病院)1)は、テレビCMなどにより、一般の人の足白癬へ
の意識が高まったと指摘されている。確かに爪白癬の実態を知ら
ない患者さんにとっては朗報であろう。今や新しい抗真菌剤内服
治療は、かつてのグリセオフルビンに取って代った。実際日常診療
で、抗真菌剤内服により爪白癬に効果を認めた患者さんに喜ばれる
ことも多い。皮膚科医にとって、重要な治療上の戦略になってきたと
言っても過言ではない。

 しかしながらその一方で、丸口幸也先生(まるぐち皮膚科医院)
2)は、塩酸テルビナフィンの副作用が予想以上に多いことを指摘され、
1)70歳以上には投与しない、2)CYP2D6代謝の薬剤と併用しない、
3)膠原病素因の患者には投与しない、4)投与開始後4週で必ず検査
をする、ことなどに注意して欲しいと教えてくださった。

 イトラコナゾールも併用禁忌、肝障害に充分な注意を要するが、
パルス療法が主体のことが多い。その点では副作用軽減の一つの
方法となるかもしれない。ただしパルス療法の際、100mg投与では
効果上の問題が指摘されている。一方、塩酸テルビナフィンは毎日
服用することから、丸口先生の指摘のように、さまざまな副作用に
より慎重でなければならない。併用薬等を含めてより適切・詳細な
情報提供が望まれる所以である。

 さらに問題が生じている。日常、真菌検査行う習慣のない(?)整形
外科や外科での抗真菌剤使用が増加しているというのだ。その実態は、
売り上げの20%近くになっているとも聞いた。白癬以外でも爪の異常を
認めることは多い。もし爪白癬以外の患者さんに抗真菌剤が無闇に
投与されたなら、これは大きな問題となってくる。

 プロトピック軟膏でも述べた3)が、皮膚科医がこれらの薬剤に
イニシアチブを取ることはきわめて大切なことである。そうした観点から
考えると、現在行われている抗真菌剤のマスコミ報道は本当に正しいの
だろうか? 私見だが、CM上でさえ抗真菌剤の重大な副作用に関して
説明するべきだろうし、なによりも皮膚科疾患の一つなのだから、皮膚科
受診の必要性をもっと具体的に明記すべきではあるまいか。 

 某社の「爪白癬治療の啓蒙活動に関するアンケート」調査用紙に記入
しながら、ふと思ったことである。そこには皮膚科という文字を見つける
ことができなかった。私たち皮膚科医は、こと爪白癬に投与する抗真菌剤に
関して、販売している製薬会社に毅然たる態度で臨むべきであろう。その
ことは決して両者に不利益ではないと、私は確信している。
  文献   

1)谷口彰治、小林裕美:Medical Tribune,  2003年 5月 15日号, p53
2)丸口幸也:新薬と臨床,152.1413,2003
3)服部 瑛:皮膚病診療,25:1190,2003
服部 瑛