アトピー性皮膚炎−その2



前回書いたアトピー性皮膚炎−その1では、大まかにアトピー性皮膚炎の病気について
説明しました。その後学会や皮膚科専門雑誌などから得られた知識を、重要と思われる
ものから順次掲載していきます。参考にしてください。

Q.掻くことやこすることはいけないですか?

アトピー性皮膚炎で最もいけないことの一つです。掻くことはいけないと知っている
患者さんは多いのですが、こするあるいは軽くたたく、いじることは構わないと思って
いる方もいるようです。
掻くことやこすることで、皮疹は必ず悪化します。掻いたところがジクジクしたり(とび
ひになることもあります)、あるいは皮膚が固く盛り上がってきます(専門的には痒疹
と言っています)。こする場合は、その部分全体が均等に赤くなるようです。
1999年の日本皮膚科学会総会(東京)で、「掻破行動」という言葉が話題になりました。
アトピー性皮膚炎の増悪因子である掻破行動の中には、心理的因子の関与する嗜虐性
のものがあるとのことです。簡単に説明しますと、ストレスなどがあると掻く行動が
起こり、それは痒くなくとも掻くという行為に及ぶ患者さんが存在し、病気を悪化さ
せるというのです。その背景には、痒いところを掻くということがとても気持ちがよ
いことなので、丁度タバコやお酒などのように嗜癖になってしまうとの説明がありま
した。知らず知らずのうちに掻いてはいませんか。是非注意してみてください。
目のまわりを掻いたり、たたいたりしていますと、高頻度に「白内障」や「緑内障」に
なりやすい可能性も示唆されました。
とにかく、皮疹を掻いたり、たたいたり、こすったりしないでください。
病気を悪化させない最も大切なことですよ!
                               

 

 
   

Q.アトピー性皮膚炎でイソジンなどの消毒療法などが有効だと聞いていますが?
 

最近ステロイドに代わる治療法として、皮膚科以外の一部の診療科(小児科など)で 行われています。
アトピー性皮膚炎患者皮膚では、最近特に黄色ぶどう球菌などが高頻度に検出され、病 変の重傷度に比例するという報告があります。そのため、それらの細菌を抑えれば皮膚 の状態もよくなるであろうとする発想から試されているようです。確かに、細菌が沢山 いる皮膚では有効の場合があります。
しかし、イソジンは皮膚表面に浮遊している細菌のみに有効であり、細菌のすみかである バイオフィルム内の細菌や皮膚内に侵入した細菌などには無効であるとされています。 さらに大きな問題点として、イソジンはその性状から「かぶれ」を起こしやすい消毒液 なのです。一度かぶれたら、いつも同じ反応を起こして、場合によったら皮膚に潰瘍を つくったり、あるいは最悪の場合ショックなどの反応を起こす場合もあります。またイソ ジンを外用することにより甲状腺機能低下症を誘発することがありますから、新生児、妊 婦、授乳婦には広範囲にイソジンを使用してはいけません。
皮膚科での現在の考え方は、アトピー性皮膚炎の治療法としてイソジンは必要ないという 報告が最近の皮膚科の雑誌に報告されております(多田穣治ほか:アトピー性皮膚炎の イソジン消毒療法の功罪,臨床皮膚科(5増刊号),109,1999)。
つまり、アトピー性皮膚炎皮膚における細菌の付着はアトピー性皮膚炎の沢山ある増悪 因子の一つでしかないと云えます。残念ながら、その一つを除いただけではアトピー性 皮膚炎は良くはならないのです。
アトピー性皮膚炎であきらかに細菌感染が疑われる場合は、勿論有効であり、私ども 皮膚科医も使用しますが(部分的に使用する方がよいと思われます。顔はできるならば、 さけた方が無難でしょう。)、イソジンだけでアトピー性皮膚炎が治ることはないと 思ってください。
イソジン療法は、あくまでも一つの補助療法なのです。
なお、「超酸性水」なども、同様のことが云えると思われます。
 



Q プロトピック軟膏は、本当にアトピー性皮膚炎に効きますか?

最近、顔面の発赤が強くなることの多い、成人型アトピー性皮膚炎
が増えているといわれています。今までこのようなタイプの場合、
なかなか症状をコントロールすることが難しい状態でした。
更にという、誰もが目にする場所であることから患者さんの
苦痛・ストレスは、計り知れないものがあります。

 1999年、11月このような状態の患者さんに対して、ステロイドに代わる
新たな外用薬として、タクロリムス 商品名:プロトピック軟膏
という薬が発売されました。
この新しい薬は、ステロイドと違う機構で、かなり有効とされています。
今までステロイドではコントロールすることができなかった、発赤
のある顔の症状を和らげることができるのです。
ちなみにまだわずかですが(発売間もないため)、当院でも赤ら顔に
とてもよく効いた患者さんを経験しています。

 ただし、以下の方は、使用できません。
  1)小児(16歳未満)の方
  2)妊婦または妊娠している可能性のある方
  3)授乳中の方
  4)PUVA療法等の紫外線療法などを行っている方

大切なことは、必ず「皮膚科専門医」の指導のもとに、経過を充分みながら
使っていくことです。

当院では、以下のようなパンフレットを患者さんに渡し、つけ方の指導を
しています。
 

新しい顔の薬(プロトピック)のつけ方

@ まず、顔の強い薬を3〜5日間使用し、肌をある程度よい状態にします。
A 次に、新しい薬(プロトピック)を1日1〜2回、顔全体に塗って
  下さい。ただし、唇、目の周り、ひっかき傷やジュクジュクしている
  ところは避けて下さい。軟膏は、薄くつけて下さい。
B 塗り始めると、多くの場合刺激感(ひりひり感、ほてり感、かゆみ等)
 が現れます。これらの症状は、薬が効いて皮膚の状態がよくなるにつれて
 おさまってきます。
C この軟膏を2週間塗りつづけても、症状が改善しない場合は、必ず
 受診して下さい。
D もし効果がある場合には、続けることが大切です。そして症状(主に
 かゆみ)に応じて、2日に1回あるいは3日に1回といったように
 つける回数を減らしていきましょう。お大事に。
 
 

そして併せて、発売元のフジサワ薬品のパンフレットを渡しています。
以下に引用します。

 患者のみなさまへ
この軟膏はこれまでのステロイド外用剤と異なる新しいタイプのお薬で、
使用経験はまだ多くありません。できるだけ副作用の発言を避け、安全
にご使用いただくために、以下の使用上の注意を必ずお守り下さい。

よくお読みいただき、処方されたご本人のみに正しくお使い下さい。

@ 次の場所には塗らないこと。
 ・ひっかき傷、皮膚がジュクジュクしている部分
 ・おできやにきび
 ・皮膚以外の部分(口や鼻の中の粘膜など)や外陰部
A この軟膏は1日に1〜2回、適量を患部に塗りますが、1回に塗る量は
  5g(チューブ1本)までにして下さい。
B 妊婦または妊娠している可能性のある方は塗ってはいけません。
C この軟膏を使用中の方は授乳を避けて下さい。
D この軟膏を塗る前によく手を洗い、清潔にしてからお使い下さい。
  また、塗りおわったあとは、塗った指をきれいに拭いて下さい。
E この軟膏を塗った直後しばらくの間、かゆみがでたり、ほてり感や
  ヒリヒリ感などの刺激感がよく起こります。また、入浴時にこの
  刺激感が増強することがあります。これらの刺激感は、この薬が
  効いて、皮膚の状態がよくなるにつれて、普通1週間位でおさまり
  ますが、刺激感がひどい場合や刺激感がなくならない場合、また
  塗った患部がはれてきたような場合などは医師・薬剤師にご相談
  下さい。
F この軟膏を2週間塗り続けても、症状がよくならない場合は、塗る
  のをやめて、医師・薬剤師にご相談下さい。
G 眼のまわりに塗る場合には目に入らないように気をつけて下さい。
  万一、目に入った場合は、直ちに洗眼して下さい。
H この軟膏を塗っている間は塗った患部を長時間、日光にさらさない
  ように注意して下さい。また日焼けランプや紫外線ランプも、
  使用を避けて下さい。



Q、最近のアトピー性皮膚炎の治療のガイドラインはどうなっていますか?

 2000年6月号の日本皮膚科学会雑誌に日本皮膚科学会編「アトピー性皮膚炎

治療ガイドライン」が詳しく報告されました。内容はかなり専門的ですので

今回はその報告だけをさせていただきます。

 現在大部分の皮膚科医は、アトピー性皮膚炎の治療を真剣に考えています。

例えば、「喘息」ではきっちりとした治療ガイドラインがすでに設定されており、

それに準拠しない場合医師側に責任があるようになっております。アトピー性皮膚炎の

治療ガイドラインもいずれそれに沿ったものになるであろうと、私は理解しています。

 その中でステロイドの使用に関しては、その有効性を評価しつつ、厳しくその使用法を

提言してます。アトピー性皮膚炎に有効なプロトピック軟膏に関しても然りです。

  今後のアトピー性皮膚炎の病態の解析とともに、治療に関しての皮膚科医の挑戦に

期待していただきたいと思っております。

 皮膚科医がアトピー性皮膚炎を治せなかったら、皮膚科の存在はなくなります。

多くの皮膚科医は、アトピー性皮膚炎の問題は極めて重要であると認識していることを

理解してください。 

 アトピー性皮膚炎の治療はかなり進歩していますが、まだまだ解決しなければならない

問題が山積しています。しかしながら、病態などはかなり解明されつつあり、その業績を

踏まえて合理的な新しい治療法が構築されることは間違いないと確信しています。

現在皮膚科医は、activeにアトピー性皮膚炎に挑戦しています。


Q.アトピー性皮膚炎で注意することを教えてください。

 広島大学の山本昇壯教授は、平成11年度中国支部総会・学術大会で

「アトピー性皮膚炎治療ガイドライン」というご講演をされております。

皆さんに必要な部分を少し掲載させていただきます。

1) アトピー性皮膚炎における痒みの誘発因子

・ 温熱,発汗          96%

・ 衣服(ウール)        91%

・ 精神的ストレス       81%

・ なんらかの食物       49%

・ 飲酒              44%

・ 感冒              36%

2) アトピー性皮膚炎の重症度のめやす

 軽症 : 軽度の皮疹が体表面積の10%未満

   中等症: 軽度の皮疹が体表面積の10%以上50%未満、    

          かつ強い炎症を伴う皮疹が10%未満

   重症 : 軽度の皮疹が体表面積の50%以上、

かつ強い炎症を伴う皮疹が10%以上、30%未満

    最重症: 強い炎症を伴う皮疹が体表面積の30%以上

※軽度の皮疹:軽度の紅斑、乾燥、落屑主体の病変
※強い炎症を伴う皮疹: 紅斑、丘疹、びらん、浸潤、苔癬化などを伴う病変

3) アトピー性皮膚炎の原因・悪化因子   

  乳児〜2歳         3歳〜12歳                  13歳から成人

1.食物           1.食物       1.環境因子      1.環境因子

2.環境因子        2.環境因子    2.細菌・真菌     2.細菌・真菌

3.細菌・真菌など    3.細菌・真菌など 3.接触抗原      3.接触抗原

                    4.ストレス       4.ストレス

                    5.食物など      5.食物など

注)患者によって原因・悪化因子は異なるので、個々の患者において

それらの十分確認してから除去対策を行う。

4)アトピー性皮膚炎のスキンケア

1.       皮膚の清潔

毎日の入浴、シャワー

       汗や汚れはすみやかに落とす

       石鹸・シャンプーを使用するときは洗浄力の強いものは避ける

       石鹸は残らないように十分にすすぐ

       強くこすらない

       痒みを生じるほどの高い温度の湯は避ける

       入浴後にほてりを感じさせる沐浴剤・入浴剤は避ける

       患者あるいは保護者には皮膚の状態に応じた洗い方を指導する

       入浴時には、必要に応じて適切な外用薬を塗布する   

など

2.       皮膚の保護

    保湿剤

       保湿剤は皮膚の乾燥防止に有用である

       入浴・シャワー後は必要に応じて保湿剤を塗布する

       患者ごとに使用感のよい保湿剤を選択する

       軽微な皮膚炎は保湿剤のみで改善することがある     

など

3.       その他

       室内を清潔にし、適温・適湿を保つ

       新しい肌着は使用前に水洗いする

       洗剤はできれば界面活性剤の含有量の少ないものを使用する

       爪は短く切り、掻破による皮膚の傷害を避ける           

など

5)アトピー性皮膚炎の薬物療法の基本

1.       外用薬の種類、強度、剤型は重症度に加え、個々の皮疹の部位と性状

および年齢に応じて選択する。

2.       顔面にステロイド外用薬はなるべく使用しない。用いる場合、可能な限り

弱いものを短期間にとどめる。

3.       必要に応じて抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬を使用する。

4.       1週間をめどに重症度の判定を行い、治療薬の変更を検討する。


アトピー性皮膚炎とステロイド外用剤

アトピー性皮膚炎は、患者さんの増加、さらに成人では難治性であり、

今や社会問題になっています。最近の研究結果では、患者さんの

皮膚のバリアー機能の低下ないし破壊、さらには免疫能の異常が

かなりはっきりと分かってきました。その治療に関しては、ようやく

日本皮膚科学会のガイドラインが報告されました。その中でアトピー

性皮膚炎においてステロイド外用剤はやはり有用であり、また最初に

選択すべき治療薬であることが再度確認されました。つまりアトピー性

皮膚炎の治療はステロイド外用剤をいかに合理的に使用するかが

大切なのです。ステロイド外用剤は、その強さによって5段階に分類さ

れています。症状や部位によってそれらのステロイド外用剤を上手く

使用することが求められます。具体的に言いますと、重篤な皮膚

症状では強いステロイド外用剤を短期間使用し早く皮膚症状を軽快

せしめ、その後弱いステロイド外用剤あるいは非ステロイドの適切な

外用剤に変更してスキンケアすることが非常に重要であることが分かって

きました。つまり炎症反応の強い時には積極的にステロイドを使用する

とともに、皮膚症状が軽減したならばすみやかに他剤でコントロールする

ことが肝要なのです。ところが最近アトピー性皮膚炎の民間療法が

にわかに現れてきました。私達はそうした行為をアトピービジネスと呼んで

います。アトピービジネスは、一方的にステロイドの怖さを喧伝して、自らの

治療を正当化しようとしています。ステロイド軟膏はアトピー性皮膚炎を

悪化させるとか、あるいは止めるとリバウンドが来るといった説明で

患者さんを混乱させています。大変困った現実です。皮膚科医は常に

アトピー性皮膚炎の治療に真剣に取り組んでいます。ステロイド外用剤に

関しても正しい判断、正しい選択を心掛けています。決して怖い薬では

ありません。今ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎においていかに

正しく使用するかが具体的に求められているのです。

24時間健康テレホンより)

アトピー性皮膚炎 最近のトピックス

平成13年4月、日本皮膚科学会は丁度100回目の記念すべき総会を開催

しました。その中で、現在注目されているアトピー性皮膚炎の様々なトピックス

が取り上げられていました。アトピー性皮膚炎の皮膚では、セラミドや天然

保湿因子などの皮膚のバリアーを担う物質の減少が明らかになっています。

そのため細胞内の水分が失われて乾燥肌になり、アレルゲンや刺激物質が

侵入して炎症を起こすことが分かってきました。そのためアトピー性皮膚炎の

治療の原則は、引き起こされた炎症をステロイド外用剤などでしっかり抑えて、

その後スキンケアで、低下している皮膚のバリアー機能を高めることがとても

大切なのです。ところがアトピービジネスと呼ばれる民間療法は、「ステロイド

は怖い」といった情報を流すことで、多くの患者さんに混乱を与えています。

民間療法への傾倒は要注意です。ステロイド外用剤による副作用の多くは、

漠然とした認識で捕らえられていますが、リバウンド、色素沈着さらには

全身性の副作用などといった外用では全く起き得ない間違った知識を持って

いる人もいます。最近では、痒みを止める内服薬の有用性も確認されてきて

います。また、新しく開発された免疫抑制剤は顔面・頸部の皮疹には極めて

有効で、長期使用でアトピーによるシミやシワも消失してくることが報告されて

います。数年前から日本皮膚科学会では、混乱しているアトピー性皮膚炎の

治療ガイドラインの作成に着手し、ようやくその成果をあげつつあります。

何度も言いますが、その中で治療の基本は、ステロイド外用剤ないし

免疫抑制剤による炎症抑制とスキンケア、そして痒みを止める抗アレルギー

薬、抗ヒスタミン薬の併用です。しかし、その前に患者さんと皮膚科医との

信頼関係がなければなりません。ややもするとお互いのコミュニケーション

不足がうかがえます。病気や治療に関して患者さんと医師との間で実際的な

理解をし合うことがまず肝要だと思われます。

(24時間健康テレホンより)