【トルコの休日】 
                       17) メブラーナ博物館
 
 
  
   写真1:メブラーナ博物館入場券(実寸10,5×7,7cm) 入場料:記載なし。
       青いとがった屋根がとてもきれい、コンヤのシンボルとされている。(写真全体が
       少し黒っぽくてなってしまいました。済みません、地は白です)
      
ヒエラポリスでは遺跡をそのままプールにしてしまったと言う奇抜な発想に驚いたあと、再びバスで約440Kmの道のりを、次の見学地「コンヤ」へと向かった。コンヤはアンカラの南250Km、アナトリア地方の学問・芸術・文化の中心地とされる都市だ。
ここがトルコ第3日目の宿泊地となるところでもある。思いの外早い時間に到着したので、翌日の見学予定先の一つである「メブラーナ博物館」を、繰り上げて訪れることになった。
 
13世紀に、メブラーナ・ジェラールデン・ルーミーと言う人が創始したイスラム神秘主義教団の一派(メレビー教団)の本拠地の『メブラーナ霊廟』が、今は『メブラーナ博物館』となっている。1925年に、トルコ共和国の初代大統領アタチュルクが、政教分離政策をとなえ、それに則って教団は解散し、その建物を博物館として人びとに開放している。解散したとは言うが、メブラーナの提唱したイスラムの精神を貴び、今もなおメブラーナを崇める大勢のトルコの信者達が礼拝に訪れていると言う。私たちが行った日も、地元トルコの人と思われる老若男女や子供を交えたグループ・団体と思われる人びとが大勢来ていた。
 
博物館は、とても広い前庭のある敷地に立てられていた。入り口の前には、写真(2)に見るように水道の蛇口がぐるりと並んだ丸い四阿風の建物があった。人びとは霊廟(今は博物館)へ入る前に、ここで手を洗い、口をすすぐのだという。実際に手を洗っている人もいた。
日本にも古来から手を清め、口をすすいだ後に神社に参拝する習慣がある。イスラム教と言ってもその精神は、日本の神道と同じような考え方なのだと思った。洋の東西を問わず「身を清めて神の前に進む」という心に差はないのだ。
 
 
     写真2:霊廟前の清め(?)の場所。
          右側に写っているカップルもトルコの人達のようだった。男性のラフなスタイルに較
          べて女性はかぶり物、長袖、ロングスカートと、露出部の少ない衣服、なんと慎
          ましやかで、イスラム女性らしい身なりだろうか
 
建物の内部は豪華な装飾が施されていた。天井には極彩色の幾何学模様、壁にも美しい装飾があり眼を惹く。宮殿のシャンデリアのような照明器具も下がっていた。建物の中心に位置すると思われる部屋にはメブラーナの棺を中心に、他の僧たちの棺が安置されていた。数々の遺品、宝物も展示されているが、とりわけ、手書きのコーランの数々に目を奪われた。ルーミー直筆とされるものものもあった。コーランはいずれも美しいアラビア文字で流麗に書かれ、要所要所には赤や緑などの色彩の文字が挿入されていて、まるで高価な美術品そのものだった。また修行僧の、実物大の人形が配置され、教団内での暮らしぶりが分かるようにされている展示室もあった。
 
このメブラーナ教団は別名「旋舞教団」とも呼ばれている。儀式の一つとして、修行僧たちが白いロングスカートでひたすらぐるぐる回って踊る『旋回ダンス(セマーダンス)』が有名であることから「旋舞教団」と呼ばれるようになったのだ。以前テレビでこのダンスを観たとき、その回転数とスピードに驚いたので、かねがね、ぜひ本場で観たいと思っていた。しかし、この儀式は毎年12月に行われるのが「しきたり」とかで望みは叶わなかった。帰りに立ち寄ったドライブインでダンスの様子を織物にした「しおり」を見つけた。シンプルながら図柄がなかなかの迫力で良かったので、実物の写真代わりにと購入した。
 
 
    写真3:セマーダンスの絵柄の「しおり」。しおりは、5人の修行僧が右向きと左向きで縦に
         交互に並んでいる図柄である。 躍動感に溢れすてきだ。 実寸:5.0×23.5cm
 
打楽器などの音楽に合わせて、修行僧たちが瞑想しながら、ただひたすら回り続ける。廻っているうちに、踊り手はトランス状態に入っているそうだ。ダンスの衣服も意味を持った特徴的なもので、筒型の帽子は墓石、ジャケットは墓そのもの、白い円形のロングスカートは遺体をつつむ白い布をそれぞれ象徴しているとされる。
 
ダンスの「振りつけ」にも、深遠な意味があった。右の掌を天に向けているのは神の恩寵を授かるため、より心臓に近い左の掌を下に向けているのは授かった神の恩寵を地上の人びとに分け与えるため、だと言う。さらに、ダンスの時に首を一方に傾けているのだが(「しおり」の図もほぼそうなっている)、それは地球の軸の傾きである23度に併せているそうだ。現地ガイド・フラットさんの説明によると、この角度を保っていると、いくら廻っても「めまい」が防止できるのだという。地軸の傾きに首の傾斜を合わせることによって、本当にめまいの防止ができるのか、耳鼻科の友人に確かめてみたいと思っている。「地軸の傾き」という宇宙的な発想は、単なるめまい防止よりもっと神秘的な意味がありそうな気がしてならない。その他の教義は知らないが、セマーダンスの説明を聞くと、メブラーナの教えはとても理にかなっているようで、今でも多くの信者がいると言う話は納得できた。
 
このセマーダンスは2005年に、ユネスコの無形文化遺産の傑作と決定されたそうである。さらに昨2007年はメブラーナ生誕800年にあたるので、この年を国際メブラーナ年と制定したと聞いた。