【トルコの休日】 19) ヨーグルト発祥の地「デナール」
 
パムッカレを後にし、コンヤでメヴラーナ霊廟などを見学した私たちは、今回のツアーの一つの山場である目的地「カッパドキア」へと向かった。パムッカレからコンヤまで440Km、さらにコンヤからカッパドキアまで220Kmと、この2日間のバス移動距離はかなりの長丁場だ。
ガイドのフラットさんは私たちを飽きさせないように次々と、トルコの音楽、文化などの説明をして下さった。車窓から見える景色は赤茶けた土が剥き出しの低い山や丘が多く、所々に低い木が見られる単調でやや殺風景な道路だった。人家が建ち並ぶ集落や小さな町もあった。人家のあるところには必ずモスクが建っていて、暮らしが宗教(イスラム教)と深く関わっていることがうかがえた。どんなに小さなモスクでもミナレット(尖塔)が1本ないし2,3本立っていた。ミナレットの本数が多いものほど、くらいの高い人が立てたモスクだという説明もあった。なるほど大都市とは異なり、小さな村では大抵1本か2本しか付いていなかった。ミナレットはモスクの格付けみたいなものなのだろうか。
 
爆睡している人は少なく、大部分の人はフラットさんの講義をきちんと聞いていた。旅も4日目ともなると、お互いの隔たりも無くなり、思ったことを口にするようになった。
『フラットさん、有名なトルコの伸びるアイスクリームが食べてみたいわ』と誰かが言った。皆「そうね、食べてみたいわ」と意気投合。やはり食べる話は気が合いやすい。
『ハイハイ、分かっていますよ。美味しいところをちゃんと選んでありますが、まだもう少し先です。必ず途中で寄り道して食べましょうね。』
フラットさんは続けた。
『食べ物の話がでたけれど、世界で初めてヨーグルトを作った所はどこだか知っていますか
皆、口々に『ブルガリアよね、ブルガリアに決まってる』
『日本の人はほとんど、ヨーグルトは「ブルガリア」と答えますが、それは間違いです。本当はここトルコなんです! ブルガリアの人もヨーグルトを沢山食べますが、初めて作った所はトルコだったのです。これから初めてヨーグルトを作ったデイナールと言うところへ行って休憩します』
(無理もない。日本ではあるメーカーのヨーグルトの商品名に「ブルガリア」という名が付いているのだから、ついつい、そう考えてしまうのだろう。実は、私もヨーグルト発祥の地はどこだか知らなかった)
 
 
 
  写真:車内風景
      「ドライブインはまだかしら、早くヨーグルトを食べてみたいわね」
      皆の首が長くなっていないでしょうか。
 
程なく、バスは道路沿いの鄙びた土産物店兼ドライブイン風の建物の駐車場に止まった。入り口前のバルコニー風の張り出した所にいくつかの木製テーブルとイスが置いてあり、出入り口近くの小さなテーブルに人待ち顔の初老の男の人が壺を前にして坐っていているのが見えた。
駐車場にバスが止まると、フラットさんは『はい、おまちどおさま。ここが世界で一番始めにヨーグルトを作った村のヨーグルトやさんです』と言った。
 
試食希望者は壺の乗ったテーブルの前に並んだ。外国で生ものはなるべく食べない方が良いとか聞いていたものの、誘惑は断ちがたく私も並んだ。男は大きなスプーンでヨーグルトを壺からすくいだし、コーヒーカップの受け皿くらいのお皿に平たく盛り、そこに別の容器から透明な黄金色にどろどろしたもの(蜂蜜だった)をかけてから中心に小さなスプーンを突き刺して渡してくれた。スプーンは、ヨーグルトの中に立っていた。急いでバルコニーにでて腰をかけ、口へ運ぶ。
スプーンは倒れないはずだ、ここのヨーグルトはとても濃厚で水分が少なく、べっとりとしていた。日頃私が口にしているヨーグルトはスプーンの上でプルプルして、するりと崩れ落ちてしまうものだった。
 
皿の上の蜂蜜の付いていないところを恐る恐る口へ運ぶ。見た目の通りねっとりとして、とても濃厚。口の中で溶けると言うより、舌にへばりつく感じだ。いつも食べているものとは全く異質と言っても良いくらい、ゆるいめのクリームチーズをいただくような舌触り、それに日本のものより遙かに酸味が少ない。蜂蜜と共に口へ運ぶと、柔らかめのレアチーズケーキと間違えそうで、デザートやおやつにしたいようだった。なるほど、これが発祥の地トルコのヨーグルトなのか、と思いながら味わった、蜂蜜とのバランスもなかなか良かった。