【トルコの休日】  6)ベルガマ 医療センター「アスクレピオン」
 
まず最初に行ったところがエーゲ海に近い「ベルガマ」という小都市である。
ここでは総合医療センター「アスクレピオン」跡と、その近くの小高い丘の上にある複合遺跡「アクロポリス」の2カ所を見学した。
 
    
  左写真  「アスクレピオン」の入場券。
今回訪れた何処の入場券も、その遺や建物の写真を入れたこのパターンのものがほとんどだった。 右上の丸い部分はホログラム加工されて虹のように光る。恐らくこの写真は、円形劇場側から中央の神殿側を撮ったものと思われるが・・・。
実寸:6.3×7.5cm。入場料;5トルコリラ(1トルコリラ=85円くらい)、
このチケットを持って、私と一緒に入場したつもりになってください。
  右写真  総合医療センター「アスクレピオン」の石畳の通。「聖なる道」と呼ばれていたもので、遙か向こうの丘へと続く。壊れたものが多いが白い大理石の列柱が見られる。
正面の丘の上がここのあとで行く「アクロポリス」の遺跡だ。
 
BC4世紀の頃、ギリシャ全土を手中にしていたアレキサンダー大王の没後、領土はその配下に分割された。この地方を与えられた領主が手腕を発揮し、「ベルガモン王国」を作り上げた。その名称が地名「ベルガマ」として現代に残っている。
ここ「アスクレピオン」で一番古い部分はBC400年頃のものと言うことが確認されている。日本で言えば弥生時代で、恐らく吉野ヶ里遺跡の頃だ。そう考えると吉野ヶ里遺跡にも行ってみたい気がする。
 
「アスクレピオン」はギリシャの医神アスクレピウスにちなんだ名称である。アスクレピウスと言うのは、太陽神アポロンの息子で、半人半馬のケンタウルスに育てられ、医術を教え込まれたとされている。
「アスクレピオン」と言うのは固有名詞ではなく、一般に総合医療センターを指す呼び名として用いられていたとみえる。当時、各地に「アスクレピオン」があり、ギリシャではエピタウルスにあるものが、トルコではベルガマのものが有名ということだ。
 
「アスクレピオン」がベルガモン王国に出来た経緯には以下の話が残っている。王国の青年貴族がギリシャ旅行中に落馬し、エピタウルスの「アスクレピオン」に入院、治療を受けた。その施設に大いに感銘を覚え、帰国後、同様の施設を作らせ、エピタウルスの「アスクレピオン」から医師を招き、ベルガマ「アスクレピオン」の基礎を築いたのだと言う。
 
『死亡率”0”の病院とかけてなんと解く?』
   『ベルガマの「アスクレピオン」 と解く 』
『そのこころは ?』
   『助かる見込みの無い患者さんは、入院お断り 』
 
ベルガマの「アスクレピオン」が繁栄したのは、すべての患者が元気に退院するからだとも言われる。上に示したような理由があったのだとフラットさんが話してくれた。確かに、治る可能性のある人しか入院できないのなら、死亡率「0」も当然である。一旦入院させたものの、万一、助からなかった場合は、夜陰に紛れて運びだしたそうだ。「入院拒否」と聞くと、今の日本の医療環境(救急患者搬送お断り)を考えてしまった。
 
  
 左写真: 「アスクレピオン」の中央広場にある,ヘビを刻んだ円柱。左奥には回廊の列柱が見え、さらにその向こうに見える丘が「アクロポリス」。
 右写真 アスクレピオン」の地下通路。天井は高く、3メートル以上はあるように見えた。天井から差し込む光と影、水の流れる音(水路もあった)、反響する声などを駆使して暗示療法に利用された。
 
この施設の中央広場にはヘビを彫った碑が据えられていた(上の右写真)。
医神アスクレピウスはいつもヘビの巻き付いた杖を携えていたこと、ヘビは脱皮を繰り返して新しい皮になったことから、当時ヘビは再生のシンボルと考えられていた。それだから、「アスクレピオン」の看板として、入り口近くの目に付きやすい所に設置されたかと推測する。
 
 
 
  画面の左下が「聖なる泉」の跡。今、泉は枯れてしまっている。奥の青空の下に見えるのが小円形劇の座席。
 
ここでの医療はどのようなことが行われていたのだろうか。
「聖なる泉」の水で身を清める、水浴場での水浴療法(夏は良いけど・・・)。
外科的な治療。このほかに、円形劇場を利用しての音楽療法。医師たちが芝居を演じたり、患者自身もレクリエーションに劇場を利用していたらしい。
ここでの医療でもっとも幅を利かせていたのは、地下通路を利用しての暗示療法(まじない)だと思われる。天井から漏れ、揺れる光と影、地下道の壁に反響する神官(医師?)の声、水路(作られていた)を流れる水の音を聞かせるなど、音と光がとても効果的に使われていたそうだ。現代の人びとが求める「癒やし」に通じるかも知れないと思った。
 
夢占いもあったらしい。地下通路の一方の端で患者が見た夢を話をすると、神官がお告げをしたそうだ。また、この地下道では一方から他方に向かって自分の願いをささやくとそれが叶えられたというのだ。ガイドのフラットさんは髪の毛が薄いのが悩みなので、ここへ来る度に「毛を増やしてしてください」と願っているのだが未だに成就しないとぼやいて見せたので、皆大笑い。